天空の滴・大地の根 1章








「不二ってさ・・・・氷帝の跡部くんと似てるよね?」

「・・・・?英二、何を言っているんだい?」

「英二先輩!俺もそう思ってました!」

「桃も?・・・ほ〜ら!」



青学の部室。
英二がいきなり変なことを言い出した。
桃もそれに便乗する。
まったく・・・。



「クスクス・・・似てないよ?どこが?」

「まず、雰囲気っすよね?」

「そうだにゃ〜・・・。気高さは似てるよね?」

「ふふふっ・・・何それ?僕に『俺様の美技に酔いな!』とか言えって?」

「あはは、不二!今のちょっと似てた。」

「クスクス・・・似てないよ?・・・全く違うもの、性格。」

「あれ?不二先輩と跡部さんって仲いいんっすか?」

「あっ・・・まぁね。」



横で英二が笑いをこらえている。
僕と跡部は・・・いつのまにか付き合っていた。
付き合ってるのか・・・疑問だけど。
自然に・・・一緒にデートをしたり・・・キスをしたり・・・
そんな関係になっていた。
そのことを知っているのは、英二と・・・町外れの写真館を営む老人のみ。
英二は、たまたま跡部と放課後、遊んでいるところを目撃されてしまったから・・・。
老人へは・・・僕が跡部を写真館へ連れて行ったときに・・・バレてしまったんだ。
鋭い洞察力に・・・あのときはビックリしたっけ。





僕は・・・跡部に惹かれた。
テニスがうまいとか・・・容姿がいいとか・・・・
そういうことではなくて、こう・・・・不思議と目がいくんだ・・・。




「顔も似てるよね?桃っ?普段は全然、似てないけど。」

英二の声に、僕は、はっとする。

「う〜ん・・・・鋭い目つきをしたときは・・・似てると思いましたけどね。」

「・・・・何それ・・・?」

「一瞬・・・跡部の影がチラつくときがあんの!不二に!!」

「そうそう!」

「・・・・ふ〜ん・・・。」














別に、僕と跡部には血縁関係なんてないのに・・・

随分と不思議なことを言われたものだから、何となく気になる。

今日は休日。

おじいさんがやている写真館に遊びに行く途中、こんなことを考えながら歩いていた。

今日は、晴れていて天気がいい。

街の景色も綺麗で・・・気分がいい。

写真館に寄った後・・・跡部の家にでも行こうかな?








ぽつん







「あ・・・雨?・・・うそっ・・・。」


太陽が僕を照りつける。
それなのに・・・空からは雨が降ってきている。


「お天気雨?」


僕は小走りで、写真館へと向かう。
雨に光が反射して・・・町中が明るい。
なのに・・・なんだか悲しい気持ちになる。
こんなに晴れた日なのに・・・
雨だからってこんな気持ちになることは、ないのに・・・
どうしてこんなに切ないのだろう?


その答えがわからぬまま・・・
僕は写真館へと駆け込んだ。



古びた写真館。
戦前から代々、受け継がれてきたらしい。
中にはたくさんの写真がある。
カラー写真から・・・本当に古いものまで・・・・


「こんにちは!」


僕が大きな声で挨拶をすると、いつものとおり奥から老人が出てきた。


「いらっしゃい、不二くん。少し濡れたかい?」

「あ・・・お天気雨が降ってきちゃって・・・。」

「こっちへおいで。タオルをあげよう。」


茶色い服を着たおじいちゃんは、ゆっくりとまた奥に入っていった。
僕は、この老人を「おじいちゃん!」っと・・・孫のように慕っていた。
温かみのある、おじいちゃんが大好きだった。

そして・・・ここにある写真も。

人々の喜怒哀楽
自然の喜怒哀楽
動物の喜怒哀楽

いろいろなものの心が写っているから・・・・。


僕も奥へ行く。
奥はたたみになっていて、たくさんの棚がある。
乱雑に本が置かれている。
そして、カメラ。
たくさんのカメラ。機材・・・・。
たいてい、僕がここに来ると、おじいちゃんは、カメラを愛しそうに綺麗に拭いていた。


「どうぞ。」

「ありがとうございます。」


タオルをもらったので、体を拭く。
頭から重圧がかかる。
おじいちゃんが僕の頭を拭いてくれている。


「少し・・・痩せたかね?」

「えっ?」

「華奢になったように思えてのう。・・・女の子みたいじゃ。」

「クスクス・・・母親似だからかな?・・・痩せてないですよ?大丈夫!」


にっこりと微笑むと、おじいちゃんもにこっと微笑み返してきた。


「やっぱり・・・・あの写真の人に、よう似とる。」

「・・・えっ?」

「ずっと思ってたんんじゃがね・・・・。見せようかのう・・・。そこの棚の上の方にな・・・茶色い封筒があるんじゃが・・・。」

「あっ、取りますね?」


僕は立ち上がって、樫でできた棚の前に行く。
棚は花の彫刻がほどこしてあり、とても綺麗だ。
埃まみれの本がたくさんある。
その間に・・・本当に今にも破けてしまいそうなほど茶色くなった封筒がある。
元は、白い色だったのだろう。
それをそっと引き抜き、おじいちゃんのもとへ持っていく。


「不二くん、そっちに座りなさい。」

「おじいちゃん・・・この封筒・・・?」

「見てご覧。」


バサッとテーブルの上に封筒の中身が散らばる。

手紙と・・・・写真?


「これは・・・・?」

「ある人が書いた・・・手紙だよ。この写真を見てごらん?」

茶色くなった白黒写真。
女の人は着物を・・・男の人は、軍服を着ている。
その2人の顔を見て、僕は声がなかなか出てこなかった。
そう・・・驚きのあまり・・・。
女の人・・・


「僕に・・・似てる・・・。」

「そうじゃろう?」

「それに・・・この男の人・・・・。」

「跡部くんに・・・似てるじゃろ?こっちは、当たり前のことなんじゃが。」

「・・・・どういう意味ですか?」

「この2人はな・・・愛し合っていた。戦時中の話じゃ。・・・」

「結婚・・・してたの?」

「結婚を約束した仲だったようじゃ。」

「約束?」

「その手紙を読めばわかるよ。・・・これはな、私の親友の残した遺品なんじゃ。」

「遺品?」

「あぁ・・・1番最後の手紙をみてごらん?」



手紙には日付がはいっていて・・・
おじいちゃんは、乱雑に封筒からだしたのかと思っていたが、手紙は上から日付の古い順にならんでいた。
量がたくさんあるので、3つにわけてテーブルに置いたらしい。
それでも・・・いったい何枚の紙があるのだろう?
と数え切れないほどの量だ。
1番最後の手紙の日付は・・・1945年8月28日。
確か終戦が8月20日・・・。その8日後で手紙はストップしている。
そして・・・手紙の一番最後の行には名前が・・・



「ふじ・・・?」

ひらがなで『ふじ』と記してあった。


「お藤さん。そう呼ばれておった。彼女は・・・毎日、日記をつける習慣があってな。」


「・・・これが跡部とどう関係あるの?」

「写真の男性はな・・・跡部くんの・・・祖父にあたるものの兄弟なんじゃよ。」

「親類ってこと?」

「そうじゃ・・・末っ子の・・・6男。今、生きていたら・・・私と同い年くらいかのう?」

「跡部の・・・おじいさんは?」

「あぁ・・・彼は5男。珍しいことに、全員男の兄弟じゃった。
 そして・・・跡部グループには、戦時中は、5人の息子がいると言われておった。」

「1人足りないじゃない。」

「それが、彼じゃよ。」

「えっ?」

「彼は跡部グループを毛嫌いしとってのう・・・家を出たんだ。」

「戦時中にそんなことが許されるの?」

「跡部グループは戦前から力を持つ会社じゃった。・・・その力なんじゃろう。」

「へぇ・・・。」

「この手紙には・・・彼らの恋愛模様が詰まってある。」

「・・・恋愛?」

「あぁ・・・不二くんに・・・最後の方の手紙を貸そう。この写真も・・・。」

「えっ・・・どうして?」

「君がこれを読んでどういう感想を持つのか・・・知りたいんじゃよ。
 君に会ったときから・・どこかで会ったことがあると思っておった。
 君が・・・跡部くんを連れてきて確信に変わったんじゃ。
 何だか・・・運命のような気がしてのう・・・。」

「運命・・・?」

「そうじゃ・・・君も読んでみたくはないかね?」

「・・・・この手紙のふじさんは、今どうしているの?」

「・・・・手紙にすべてが記されておるよ。」

「・・・・・。おじいちゃんは・・・跡部とは・・・?」

「知り合いじゃない。わしは・・・お藤と知り合いじゃっただけ。
 跡部くんも・・・この6男のことは知らないかもしれんな。跡部家では・・・この話はおそらくタブーじゃ。」



何故だかわからないけど・・・
すごく読みたくなった。
僕に似ている女性。
跡部の親戚。
その2人の戦時中の恋愛・・・・。

今の僕たちと・・・どれだけ違うのだろうか?



「おじいちゃん!借りていくね!」

「あぁ・・・今日は写真を撮らないのかい?」

「最初はそのつもりだったけど・・・今日は帰ります!」



僕はパタパタと急いで靴を履き
まだお天気雨の降る中・・・跡部の家を目指していた。