天空の滴・大地の根 ―序章―
しとしとしと・・・・しとしとしと・・・・
暗い家の中、カーテンは閉めきる。
光がもれたら、見つかってしまうから。
1本のロウソクの元で・・・私はこの手紙をあなたに書くの。
毎日・・・毎日・・・
防空壕へ逃げたときも・・・闇市へ出かけるときも・・・
私は、あなたにもらった万年筆と・・・紙と・・・・
あなたへの想いがつまった封筒を・・・・
絶対に懐へしまっておくの。
しとしとしと・・・・しとしとしと・・・・
悲しい大地の涙
哀しい大地の歌
どうして空から涙がこぼれるの?
これは私の涙?
それともあなたの?
きっと・・・みんなの涙なんだわ。
無念の死
途切れた愛
仲間との分裂
悲しすぎる・・・悲しすぎる・・・
私には、そんなの耐えられない。
あなたと会えた1夜
今でも忘れない。
元気ですか?
きちんと食べているのかしら?
あのあと・・・あなたのお父様が、私のところへ来てくださった。
昔とは、全く違う姿となった私に・・・同情してくださったわ。
昔は、あなたとつりあうくらい身分も高くて・・・・よく一緒に、食事会をしたわね?
でもそんなの・・・とうの昔の話。
私のお父様とお母様は・・・空へ・・・天空へ舞い上がった。
お父様は、あなたのことを心配してらっしゃった。
そして、私のことも・・・。
一緒に来れば安全だからと・・・・お父様は私を守ってくださると・・・仰ったわ。
でもね・・・私は断った。
だってそうでしょ?
ここから私が離れたら・・・また、あなたが帰ってきた時に困るもの。
あなたは、自分の家に寄りつこうとしない人よ。
それがわかっていたから・・・・私はここに残ることを選んだ。
早く・・・早く・・・また、あなたに会いたい。
しとしとしと・・・・しとしとしと・・・・・
いつまでこの雨は続くのかしら?
僕の目から1粒の滴が落ちる。
目の前で眠る君。
そのいつもと変わらない姿が、僕の心を落ち着かせる。
「んっ・・・。」
寝返りをうつ姿も
笑顔も
えらそうな態度も
すべてを永久にと願う。
でも、その願いは・・・・・。
序章。
どれが、誰の言葉なのか・・・。
それはこの先わかるはず。