記憶の道標 Story♯07 エンジェル
とりあえず、お昼を食べてから公園に行く事になった。
景吾はバイト先の人に休暇をもらうために、出かけていった。
迷惑かけちゃったな〜・・・。
景吾は顔はいつも怒ったような顔をしているけど、中身はとても優しい。
僕は彼を信用している。
でも・・・ちょっと気になっている事があるんだ。
それは、英二に嘘をついた理由・・・そして、あの分析力と精神力。
普通の人が、僕を最初に襲った車のナンバーが隠されていたなんてこと気づくのかな?
あんな状況の中で、ナンバーを注意して見るなんて・・・ありえるのか?
看板のワイヤーだって・・・何で景吾が持ってたんだろう?
そして、電話。
電話の主は景吾のことを知っていた。やつは、景吾を傷つけると言った。
なのに、景吾はそれを聞いてもあまり動揺しなかった。
何で・・・?
バンッ!
ドアが開き、閉まる音がした。
「フジ、昼食べたか?」
「あっ・・・う、うん。」
「じゃぁ、行くか。」
「えっ?景吾、ご飯は?」
「あぁ・・・バイト先で食べてきた。断りきれなくてな!」
「ふ〜ん・・・。」
じっと景吾を見つめる。
「?何んだよ?行くぞ!!」
「ちょ、ちょっと待ってよ〜!!」
僕たちはヤマフジ公園にやってきた。
はじめてきた。
僕が・・・倒れていた公園・・・・。
結構、広い公園で・・・噴水、遊具、グラウンド、ベンチ・・・あらゆるものがある。
周りは高い木々に囲まれていて、都会にいるとは思えないほど自然にあふれている感じがする。
大石先生の病院から近いらしい。景吾の家からも近い。
そうだな・・・どちらの場所にもここからなら10分で歩いていける。
でも・・・何も思い出さない。
景吾について広い公園の中を歩く。
噴水の場所から違う場所への道だと看板に書いてあるのが目に入った。
突然、彼の歩みが止まった。
「・・・景吾?」
「ここだ。」
見るとそこにはベンチがあった。
道が長いので、おいてあるのだろう。
周りには街灯が数本しかなく、夜はきっと暗いと思う。
「ここが・・・僕が倒れていた場所?」
「あぁ・・・。」
ベンチに触れてみる。
木製。腰掛の右端の方に、薄く赤いしみが残っている。
僕の血なのかもしれない。
「大丈夫か?」
景吾が心配そうに声をかけてくれた。
「うん・・・平気だよ。そういえば・・・僕を何で見つけたの?まだ聞いてなかった。」
「・・・お前を発見したのは、朝だった。
俺はたまにここの公園を散歩するんだ。なかなか好きな公園だから。
ここは、実はあまり人が通らない場所なんだ。だから、発見が遅れたんだろう。」
「どうして?」
「この公園はお前も来てわかったと思うが、広い。
噴水エリア・遊具エリア・グラウンドエリア・・・大きくこの3つのエリアにわかれているんだ。
この3つのエリアへいく道は、全部で3つ。
その中で、この道は一番古いもので街灯もあまりないし、道もボコボコだろ?
そして、各エリアへの移動距離も長い。だから、皆は別の道を使うんだよ。」
「へ〜。なら、ここの道いらないじゃん!」
「まぁ・・そうかもな。」
「でも、何で景吾はここの道を選んできたの?僕を見つけたとき」
「あまり人がいないし、距離が長いからさ!その方が・・・何となく落ち着く。」
「なるほどね。」
「俺は歩いていたんだが・・・ふとベンチを見たらお前がベンチに仰向けで倒れていたんだ。
最初は寝ているだけかと思ったんだが・・・お前はまだ若い。ホームレスにしたら変だ。
声をかけようと近づいたら・・・血が見えた。だから、救急車を呼んだ。
あせったよ。」
「・・・そうなんだ・・・。ごめん、景吾。僕、何も思い出せないんだ・・・。」
「そうか・・・。ここに居たのは間違いないんだがな・・・。」
きっかけがあれば思い出せるかもしれない。
だから、ここにくれば何か手がかりが出るとおもったのに・・・。
間違いなくここに僕は来ている。
そう、たしかにあの時は暗かった。
それにとても静かだったんだ。
景吾の説明と一致するじゃないか・・・。
少し自己嫌悪に陥りそうになった・・・。その時!
ガサガサ!
いきなり、ベンチの背後の植え込みから音がした。
僕と景吾は思わず顔を見合わせる。
ガサガサガサ・・・ガサっ。
「・・・何?・・・猫??」
「猫じゃないもん!ミクだもん!!」
そこから出てきたのは小さな女の子だった。
「えっ!?」
ビックリした〜。
いつもクールな顔の景吾も驚いた顔をしている。
「君は・・・・?」
景吾が女の子に訪ねる。
「ミクだよ!7歳なの!!」
フリフリのピンク色のワンピースを着ている。
母親が結ってくれたであろうポニーテールは植え込みを通ったせいで、少し乱れていた。
小さな女の子は、僕の方を見る。
「あっ!お兄ちゃん!!頭まだ痛い??だいじょうぶ??」
「!?」
この子は・・・僕を知ってる??
景吾が即座に女の子に話しかける。
「ミクちゃん!この男の子・・・知ってるの??」
「うん!ベンチに座ってたの。」
「座ってた・・・?僕が?」
「うん。頭から血が出てた。だから、だいじょうぶ?って言ったらね、寝ちゃったの。」
僕らは黙った・・・。
この子は僕を見ている・・・。何で?
「今日は・・・どうやって植え込みからココに来た?」
景吾が優しく彼女に問いかける。
「おうちから来たの。」
景吾はしゃがんで彼女と同じ目線で話を続ける。
「こんな植え込みを通ってか?」
「そうだよ。近道なんだもん!」
「近道?」
「うん!おうちのね、裏にあるお庭を通ってきたの。
ミクしか知らないんだよ!」
景吾は何か思い立ったそぶりをみせて、彼女が出てきた植え込みを掻き分ける。
「け、景吾??」
「・・・なるほどな。見ろ、フジ。」
景吾の言われたところを見る。
庭が見える。そして、かわいらしい家も・・・。
「高い木々と植え込みでわからなかったが・・・家があるってわけだ。公園の裏に。
ご丁寧に、ここだけフェンスに穴が開いてる。彼女はここを通ったってわけだ。」
フェンスには、小柄な人が1人通れるくらいの穴があった。
「ミクちゃんさ、いつ僕を見たのかな?お空は明るかった?」
「ううん。夜だよ。暗かった!ママに怒られてね、おうちに入れなかったの。
だから、公園に行こうと思って・・・」
「フェンスを通ってこの道に来たのか?」
「うん。そしたらね、このお兄ちゃんが歩いてきて・・・」
「歩いてきた!?僕が?どっちから?」
「あっち!」
彼女は指をさした。
「グラウンドエリアの方だ・・・。それで?」
景吾が再び彼女に話をふる。
「ミクに気づかないで、ベンチに座ったの。頭を手で押さえてたよ!だから、いたい、いたいなのかな?と思って・・」
「僕に声をかけた。」
「うん。でも、そのまま寝ちゃったし、やっぱりママのところに戻ろうと思って帰ったの。」
僕たちは、頭の中を整理しようと、黙っていた。
そして、景吾が何かに気づいたのか急に僕に話しかけてきた。
「・・・フジ。天使の正体がわかったよ。」
「て、天使?」
「お前が最後に見たものは??」
「・・・・。あっ!!」
そうだ!僕が最後に見たのは、かわいい女の子の天使!
それが、このミクちゃんだったというわけだ。
彼女が心配して僕の顔を覗いたとき、僕には彼女が天使に見えたのだろう。
「天使は・・・ミクちゃんだったんだ。」
「ミクは天使なの?」
僕らの会話を聞いて不思議そうな顔で見つめてくる。
「あはは、違うけど・・・天使みたいにかわいいって意味だよ。」
僕ががフォローを入れる。
ミクちゃんは、ニコニコととても嬉しそうな顔をしていた。
「景吾!・・・ミクちゃんが鍵だよ。記憶の扉の鍵!」
「そうだな・・・。母親にも話を聞いた方がいいだろう。ミクちゃん、おうちに行ってもいいかな?」
「うん、いいよ!」
僕たちは記憶をたどる第一歩を踏み出そうとしていた。
天使ね!序章などを振り返ってください。
ちょっとずつ話が動いてます。
でも、この先どうするかはあまり決めてない。
しかも、ミクちゃんって誰だよ!って話です(苦笑)
だって・・・テニプリに適切なキャラがいなかったんですもん・・・。(汗)