記憶の道標 Story ♯08 敵と味方
ミクちゃんの家へ行く。
彼女の家は公園の裏に位置する。洋風のかわいい家だった。
庭からは、公園の高い木々で公園内の様子をみることができない。
フェンスの穴はあるが、ツツジが生い茂っているのでミクちゃんがかきわけてきたように
しないかぎり、公園の様子を見るのは不可能だろう。
お母さんは、突然やってきた僕たちに驚いたような素振りをみせたが、すぐに笑顔で家の中へ招いてくれた。
ミクちゃんが怒られたと言っていたので、恐い人かと思っていたが、
想像とは違い、温和そうで優しい笑顔が特徴的なお母さんだった。
ベージュのソファーに座る。
お母さんがお茶を入れてくれた。
「あっ、すみません。」
景吾が恐縮して言葉をかける。
「いいのよ。それで・・・聞きたいことって?」
「ミクをママが怒った日のことだよ!!」
「そう・・・・彼を見かけたことはありませんか?ヤマフジ公園で。」
景吾が僕を手で示す。母親は、僕の顔をじっと見つめる。
「・・・う〜ん・・・見かけたことはないわ。ごめんなさいね。」
「ミクちゃんは1週間ほど前、彼を・・・フジを見かけたみたいなんです。」
「ミクが?」
「そうよ!私ね、お兄ちゃんを見たんだよ!!褒めてよ、ママぁ。」
僕たちがあまりに見かけたことを重要視するので、自分はえらいことをしたんだ!と思っているらしい。
「ふふっ、いい子ね〜。」
母親はミクちゃんの頭をなでる。ミクちゃんはとても嬉しそうな顔をしている。
「・・・ミク、ちょっと隣のお部屋で遊んできてくれるかな?お兄ちゃんたちね、大事な話があるみたいなの。」
「えぇ〜!!ひとりで〜?」
「じゃぁ、僕と遊ぼっか。」
「うんっ!じゃぁ、お人形さんで遊ぼっ!!」
彼女は僕の手を引く。
母親がすまなそうに軽くお辞儀をした。
話は景吾が進めた方が効率がいい。
それに母親からの話は後から聞けばいいし・・・
そう判断して自らミクちゃんの子守を引き受けた。
その趣旨を目で景吾に知らせる。
景吾も同じことを考えていたのか、そっとうなずいた。
「では・・・本題へ。ミクちゃんは怒られたら外へ行く癖でもあるのですか?」
「いいえ・・・私もめったには怒りませんから・・・。あの日は、これまでになくケンカをしてしまって・・。
外へ締め出したんです。それで、抜け道から公園へ行ったのかと。」
「フェンスの穴から公園へ行くのはご存知なんですね?」
「えぇ。あの子はいつもあそこから行くので。お友達なんかにも自慢していましたから・・・。
人通りは少ないからとはいえ、ミクが公園へ行くのは昼から夕方の明るいうちですから、特に注意はしなかったのですが・・・」
「なるほど。話を戻しますが、1週間前フジはあそこの公園で倒れていたんです。それをミクちゃんが見かけた・・・」
「あぁ。あれは、本当だったんですね!」
「・・・・と言うと?」
「あの日・・・心配になった私はミクを呼び戻したんです。そうしたら、お兄ちゃんがベンチで寝ちゃったって・・・。
ホームレスの方かなんかが眠っていることを言ったのかと思ってましたわ。」
「・・・ミクちゃんが、フジについての発言をしたのはそれだけですか?」
「あと・・・銀のボタンを見つけたと。拾って帰ってきました。」
「見せてもらえますか?」
「えぇ。ちょっとお待ち下さい。」
母親はそう言って近くのタンスの引き出しを開ける。
「これです。」
アンティークっぽい銀色のボタン。
古いものなのか、少しサビている。
ん?これは・・・
「少し、お預かりしてもよろしいでしょうか?」
「え?・・・えぇ。もしよかったら、差し上げますわ。その赤くサビているのが、何となく気色悪くて。」
「どうしてですか?」
「最近、この近所で殺人事件がありましたでしょ?ほら、ここから10分ほどくらいで着く川原で・・・」
バタン!
「景吾!何かわかった?」
僕は景吾たちの部屋へと戻った。
「なっ・・・ミクちゃんは?」
そう言いながら、景吾は何かをポケットにしまった。
「?・・・寝ちゃった。遊び疲れたみたい。」
「そうか。」
「あら、本当にごめんなさいね。」
「あっ、いえ。きちんと布団に寝かせてきました。」
「どうもありがとう。」
「フジ・・・そろそろ帰ろう。」
「まぁ、何もお役に立てませんで・・・・」
「いや、非常に参考になりましたよ。ありがとうございました。」
母親は急に景吾が帰ると言い出したのに、パタパタと見送りをしてくれた。
景吾は僕の手を引いて、急いでミクちゃんの家を出た。
また、ヤマフジ公園に戻るのだろうか?もと来た道を戻っている。
「景吾?何かわかった?」
「いや・・・ミクちゃんがあそこの近道を頻繁に利用していたということが実証されたぐらいだ。」
「ふ〜ん・・・じゃぁ、何をポケットに隠したの?」
「何のことだ?」
「とぼけたってダメだよ。ちゃんと見てたよ。」
景吾は僕の目をみつめる。
「・・・お前には、負けるな。探偵にでもなったらどうだ?」
「クスっ。記憶が戻ったら考えるよ。」
「だが・・・残念だったな。」
景吾がポケットから出したのは、時刻表だった。
「何?時刻表?」
「あぁ、俺はこれから出かけるから時刻表で電車の時間を見ていたんだ。」
「出かけるの?英二のお見舞い行かないの?」
「あ、あぁ。ちょっと急用でな。」
「じゃ、僕、1人でお見舞いに行ってもいいかな?」
「やめろ!」
景吾が声を張り上げる。
思わずきょとんとしてしまう。
な、何でそんなこと言うんだろ?英二が心配じゃないのだろうか?
「あ・・・悪い。・・・ほら、菊丸も昨日の今日だ。精神的にも肉体的にも疲れているだろうから・・・。
まっすぐ家に帰ろう。家までついていく。」
「えっ?いいよ!僕、一人で帰れるよ。」
「ダメだ。」
「いいって!迷子になるような年齢じゃないよ、たぶん。」
「そういう問題じゃない。危ないだろ?お前は、危機感がなさすぎるんだ!ほらっ、こっちに来い。」
そう言いながら僕を歩道の内側に導く。
「もう、僕は子供じゃない!!」
「子供かどうかなんて、わからないんじゃなかったのか?」
「・・・・。」
僕は相当悔しそうな顔をしているのか、景吾は人をバカにするように笑っている。
とりあえず、景吾に従っておこう。
でも・・・何か納得がいかない。
そんな風に思いながら、そのまま景吾に手をひかれながら景吾の家までの道をたどった。
景吾が、僕が襲われた道を通らないようにとわざわざ遠回りをしているなんてことには気づかずに。
お母様の登場です。
ちょっとマダムな感じにしてみた(笑)
まだまだ先は長いな・・・。
母親も架空人物。
だって・・・スミレちゃんにするわけにもいかないし・・・(笑)