記憶の道標 Story ♯10 景吾
僕は、賑やかな繁華街を通りこの前車に襲われた路地を一人で歩いていた。
夕方なので多少は明るい。
殺人事件。英二が教えてくれたものだが、何か僕と関係があるのではないか。
そんな感じがしている。
記憶を辿る手がかりに・・・・景吾の謎を解く鍵に・・・・・。
早く帰って、調べたかった。
僕は急ぎ足で、景吾たちの住む家に戻ってきた。
恐る恐る大家さんから借りた合鍵でドアを開ける。
部屋の中は暗い。
まだ、帰っていないようだ。
よかったとほっとすると同時に、早く調べなければという思いに駆られた。
部屋には鍵がついていないので、僕は簡単に英二の部屋に入れた。
乱雑とし、予想通り資料が山のように積んである。
新聞は何誌もきちんと日にちの順に並べてあった。
「最近」と言っていたので、ここ1週間の新聞に目を通すことにした。
昨日の朝刊にはじまり、一昨日、一昨昨日・・・・とりあえず火曜日の新聞から丁寧に記事に目を落とす。
トップ扱いで、この近所の殺人について載っていた。
「河原射殺事件」
このタイトルが目につく。16日の新聞記事にはこう書いてある。
15日午後8時ごろ○○区の川原で、堀田財閥の社長である「堀田恭平さん(75)」が射殺された事件において、
死因は銃で頭を強打されたことによる脳挫傷だと判明した。
犯人は、鈍器により堀田さんの頭を殴り気絶させた後に射殺しようとしたのではないかと考えられる。
○○区の川原は、人通りが少なく目撃者もいないため捜査は難航している。
週刊誌も何冊かあった。
どこからの情報なのか・・・犯人が使ったものと同じ形のモデルガンが載っている。
事件発生は15日・・・・15日の新聞を探す。
しかし・・・・15日の新聞記事がない。
今日は、22日。月曜日。15日も月曜日。・・・僕が記憶を失ったであろう日だ!
何で、15日の新聞だけないのか。
なるべくバレないように探したが・・・どうしても見つからない。
・・・もしかして・・・。
次の瞬間、僕は直感的に景吾の部屋へと入っていた。
僕が寝泊りしていた部屋。
その僕に見つからなそうな場所・・・・。
ベッドの下にも、棚の上にも何もない。最後にデスクの引き出しを開けてみた。
「・・・・。」
新聞が乱雑に入っている。
心のどこかでその新聞記事が15日のものでないことを祈っていた。
しかし、その祈りは通じなかった。
15日の新聞・・・。
広げてみると、数箇所記事が切り抜いてある。
この抜けた部分に事件のことが書かれていたのだろう。
切り抜いたのは・・・たぶん景吾だ。
なぜ、切り抜く必要があったのだろうか?
僕や英二に知られたくない情報でも載っていたのか?
もう一度、引き出しに目線を戻した。
四角い缶のようなものがある。
これは・・・何なのだろう?
その缶を持ってみる。・・・・重い。
「・・・射殺された事件において・・・」
この言葉が脳裏をよぎった。
ゆっくりと缶のふたを開けてみる。
銃だ。
一瞬モデルガンなのではないかとも思ったが・・・違う。重い。本物だ。
しかも、赤いしみがある。
さっき週刊誌にモデルガンが載っていたので見比べる。
・・・同じものだ。
僕は頭の中が真っ白になった。
確か、犯人は気絶させてから銃で撃った・・・。
しかし、当たり所が悪く気絶させたときに殺害してしまっていた。
ということは、きっと頭から出血するくらいの勢いで殴ったのだろう。殴ったものが銃なら・・・・。
景吾の机に入っていたこの銃の赤いしみは・・・・。
「・・・景吾が・・・・殺人事件の犯人・・・・・。」
僕は知ってはいけないことを知ってしまったのかもしれない。
景吾に疑問を抱いたときから、どこかで考えていたことであった。
しかし、新聞といい銃といい・・・証拠が次々と出てきてしまい、その考えは確実なものへと変わった。
景吾が犯人なら、なぜ僕を狙った?
いつでも僕を殺せるのに・・・・。
あ・・・あれ?
目の前が少し暗くなった。
ここは・・・川?河原だ!
・・・近くには、変な倉庫があるようだ。
そして、ここの辺りは川が深いのだろうか?
入って来れないようになっている。だが、そこに僕はいる。
人が倒れてる。・・・誰だ?
僕はそっと倒れている人に近づく・・・
その人は・・・?
はぁ・・・はぁ・・・。
息が苦しい。もう少しで見えるのに・・・また見えない。
誰かの手がのびてくる・・・そして・・・あの目が・・・。
ガチャ
鍵を開けようとしている音がした。景吾が帰ってきたんだ。
その音で現実に戻ってきた。また・・・思い出したんだ、少し。
河原・・・やはり僕はこの事件の何かを見ているのか?
そう考えつつ僕は急いで、すべてのものを片付ける。
目の前は暗く、息もまだ苦しかった。
ギリギリセーフ。英二の部屋に週刊誌を戻し、部屋の扉を閉めた直後に景吾はリビングへと入ってきた。
「フジ、ただいま。」
「お帰りなさい、景吾。」
景吾は僕の顔をまじまじと見る。
「・・・気分悪いか?顔色が悪い。」
「えっ?いや・・・大丈夫・・・だよ。」
「大丈夫じゃないだろ?お前はいつもそうやって我慢して・・・すごい汗だぞ?」
「・・・んっ?」
自分でそういう感覚はないのだが、僕はふらふらしていたのだろう。
景吾が近づいてきて、僕の腰を持ち支えてくれた。
「ゆっくり・・・こっちに来て座れ。」
「・・う・・ん・・・。」
頭が痛い。吐き気がする。
「・・・何を・・・思い出した?」
「・・・えっ!?」
「思い出したから・・・気分が悪いんだろ?ほら、濡れタオル!冷やしておけ。」
相変わらず・・・景吾はスゴイ。彼には嘘がつけない。
でも、僕だって負けない。景吾が犯人だということを念頭において、しゃべりだした。
「河原・・・」
「・・・河原?」
「殺人事件のあった河原が見えたんだ。そこには・・・倉庫がある。たぶん・・・13番倉庫。あと・・・人が入って来れないようになってるはず。」
「お前・・・どうして殺人事件のことを知っている?」
やっぱり・・・景吾の顔つきが変わった。
「昨日、ミクちゃんが言ってたんだ・・・遊んでるときに。」
本当のことを言うわけにはいかない。咄嗟に嘘をついた。
「・・・どこまで知っているんだ?」
「この近くの河原で老人が殺されたってことくらいだよ。」
「そうか・・・・。お前・・・思い出せ。あの近辺には、たくさん家があったろ?人がたくさんいなかったか?」
僕はさっきの情景を思い出す。
「たくさんの・・・家?いや、ないよ。家なんてない!あたりは真っ暗だし・・・河原の両岸は雑草が生い茂ってた。
右側に倉庫があるくらいだよ。たくさんの。」
「・・・お前が見た【何か】は・・・おそらく河原の殺人事件に関係するものだろう。」
「・・・えっ?」
「今、俺はお前を試したんだ。あそこは殺人事件以降、立ち入り禁止になっている。新聞記者もマスコミもシャットアウト。
お前の情報は正確なんだ。あそこには倉庫はあるが、家なんか1件もない。新聞にも週刊誌にもテレビにも・・・あそこの情景に関する情報は載らない。
でも、お前は知っていた。つまり・・・」
「記憶を失う前・・・殺人が起こる前に・・・」
「お前はあの現場にいた。」
「・・・・。」
また記憶への道が開けた。
いつもの僕なら・・・明日、河原に行って調べよう!と言い出すのかもしれない。
でも・・・景吾は・・・その事件の犯人。
今の会話で、景吾はミスを犯している。
どうして、情景に関する情報は漏れていないのに・・・景吾は知っているのか?
どうしてあそこに13番倉庫があることや、1件も民家がないことを知っているのだろうか?
理由は1つ・・・・犯人だからだ。
僕が行く!と言い出したら、彼は絶対についてくる。
犯人の彼・・・追われる身の僕・・・・。
なぜ、景吾は僕を殺さない?こんなに近くにいるのに・・・。
僕の記憶の回復を監視しているのだろうか・・・?
「フジ!」
景吾に呼ばれて、ビクッと反応する。
「な・・・何・・・?」
「お前は・・・寝てろ。おかゆ作って持っていってやるから。」
「えっ?・・・だいじょうぶ・・・」
「ぼ〜っとしてるぞ?」
彼は僕の額を触る。
「・・・少し熱っぽいしな・・・。」
彼に言われるがままに、僕は彼の寝室へと移動した。
ベットに横になったあとも・・・考えていた。
僕が事件に関わっていて・・・しかもその事件の犯人は・・・景吾。
これからどうすればいいのか?
記憶を辿る旅は・・・波乱な方向へと進んでいた。
犯人は景吾でした。(笑)
フジは河原の殺人の何を見てしまったのか?
そして、犯人である景吾との関係はどうなっていくのか。
それが今後のポイントなのかもね。