僕と君。俺とお前。
皆さんは、人生に疲れることはないだろうか?
僕は日々、疲れている。
学校でも、家でも、どこででも・・・・
友人でも、家族でも、誰にでも・・・・
演じてしまうんだ。いい子を、良い人を・・・。
本当の自分を見てくれる人はいない。
でも、そんなある時・・・あいつと出合った。
「はぁ〜。」
ここは学校の屋上。ドアに鍵がかかっていて、一般生徒は入れない。
でも、僕は知っている。
屋上への秘密の扉があるんだ。
鍵がかかっているドアの右斜め上に階段がある。立ち入り禁止の紙が貼ってあるんだけど、
無視して上れば、秘密の扉に出る。鍵はあるが、そこのはフェイクなんだ。
そこを開ければ、目の前に広がるのは青い空!僕のお気に入りの場所だった。
ここから、街を見渡すと心が晴れる気がする。
テニス部で天才と言われている僕、真面目に授業を受ける僕、まやかしの笑顔で話す僕・・・
そんなレッテルがすべて洗い流され、一人の人間になれる気がするんだ。
涙が自然と流れてきた。
とめどなく・・・とめどなく・・・。
「不二?・・・お前、何してんだよ。」
不意に声をかけられ、思わず振り向く。
給水タンクの上に・・・跡部景吾が座って僕を眺めていた。
彼は、氷帝学園テニス部の部長。
実力は全国区。この前、うちの手塚を破ったほどの強さだ。
性格は、とにかく強気!俺様的な態度をよくとる。
気高き王子といったところか。
僕は別に彼のことは嫌いじゃない。
ただ、学校が別だし・・・会う回数も少ない。
今まで・・・互いの存在は知れど、話したことは数回もなかった。
彼は、黙って僕を見つめていた。
そして、タンクから飛び降りて僕の近くに寄ってきた。
彼の指が、僕の頬に触れる。
「・・・どうした?」
彼の声は思いのほか、柔らかく優しいものだった。
「っ・・・えっ?あっ、いや・・・。」
誰もいないと思っていた場所に、人がいたという事実に驚き自分が泣いていたことを忘れていた。
彼の手をはらい、ゴシゴシと自分の手で涙を拭く。
絶対に笑われる!そう思ったのだが、その考えを彼は裏切る。
「こっちに来いよ。不二!」
「えっ?ちょっと、待てよ!」
ニっと微笑んで、僕の手を引く。
いや、予定が違う。もっと声をあげて笑われると思ったのに・・・。
僕らは給水タンクにのぼり、横に座った。
しばらく、2人で静かに街を見ていた。
何となく、気まずい。
でも、彼はそんなこと微塵も思っていないかのように、話を切り出した。
「不二・・・何でここにいるんだ?」
「えっ?あぁ・・・昼休みだし・・・右上の階段を上がって・・・」
「いや、そうじゃなくてさ。」
彼はやけに真剣な顔をしている。
試合のときのような顔だ。
「君こそ・・・どうしてここにいるの?ここは、青学だよ?第一、扉に鍵かかってたでしょ?」
「あぁ・・・顧問に用事を頼まれた。で、用事は済んだんだが・・・屋上が好だから・・・
来てみたら、案の定、抜け穴を発見したわけ。」
「・・・それ、かなりヤバくない?他校に来て、他校の禁止区域に入って・・・」
「お前に言われたくね〜な。」
「クスっ。・・・確かに。」
2人して、こんな会話を・・・しかも、こんなに和やかにするなんて・・・不思議な体験。
「どうして・・・屋上が好きなの?」
「心が透き通る気がするんだ。本当の自分と向き合える気がする。」
「・・・・。本当の自分?」
「そう。俺って、どういう印象だ?」
どう言えばいいのか迷っている僕に、彼はククっと笑いかける。
「いや、正直に言えよ。」
「・・・。そうだな〜・・・一言で言えば強気なナルシスト!」
「なかなか、ハッキリ言うじゃね〜か。あ〜ん?優しいお前にしては珍しいな。」
彼は周りが僕に抱いているであろう印象を代弁したように思えた。
「たぶん・・・ココだからだよ。」
「ふ〜ん・・・。」
僕たちはどうやら似たような考えを持ってこの場所に来ているらしい。
こんな少しの会話でも、彼がいつもの跡部でないことがわかった。
彼にも僕がいつもの僕ではないことに気がついたのだろう。
だからこそ、いつもの自分らしくもなく素直な言葉が、出てきたんだと思う。
「ねぇ、続きは・・・?」
「あぁ、自分では・・・あまり強気だとは思ってないんだ。」
「どういう意味?」
「ただ・・・まとめなくちゃいかないからな・・・部長として。
しかも氷帝の部員数は200人。威厳のある部長・・・カリスマでいなくちゃいけない。
そうじゃないと、200人もの人間を引っ張れないからな。
だから・・・強気でいた。クールにものを見た。厳しい言葉をかけた。
そうしているうちに、こいつはそういう人間なんだと勝手に認識されてしまった。
本当は・・・違う部分だってあるのにな。」
「わかる。僕も似たようなこと考えてるんだ。
演じている気がするんだよ。周りに迷惑をかけたくないから・・・
いや、違うな。周りに良く思われたいから、ついつい・・いい子を演じる。
最終的に本当の僕を見てくれる人はいなくなるってわけ。
本当は自分をわかってほしいのに。」
「へぇ・・不二もそんなこと考えてたんだな。」
空には一筋の飛行機雲がたなびく。
「でも、俺は答えが見つかったように思えるぜ。お前のおかげでさ。」
「えっ?」
「できるじゃね〜か!俺たち。この屋上では素直になれた。
本当の自分を伝えられたんだ。
普通なら、こんなこと話さない・・・話せないのに、それがここではできた。」
「うん・・・。」
「ここでできることが、他の場所でできないってことはないって話だ。」
「跡部・・。でもさ・・・ここだから、なんだよ。他で素直になれる保証は・・・」
「だから、考えようだっての!もっと単純に!!保証とかいいんだよ。
信じて疑わなければ・・・できる。
素直になれる。不二みたいに、本当の俺を受け入れてくれる人がいる!」
彼らしい考えに堪えきれずに笑う。
「笑うなよ!!でっ・・・どう思う?」
「ははっ、ごめんごめん。・・・・・そうだね。
素直になる、自分を理解してもらうということは難しいことだし・・・
相手の反応への恐さがある。
だけど、その恐さを打ち破ればいい話ってわけだね。勇気がいるけど。
変わりたいなら、やるしかない!そこは考えても仕方がない!
それに、すべてをわかってもらうというのは不可能に近い。
拒否されることだって、あると思う。そんなときはショックだけど・・・
少しづつ・・少しづつ・・進んでいけばいい、っと・・・思うんだけど?」
「よくできた。何か、言葉だけになりそうで不安だったんだ。
自分で言ってて、そんな青春っぽい考え方ありえるか〜?とか思った。
けど・・やっぱ2人分の言葉には威力な。確信に変わったぜ。」
「クスクス。安心しなよ。僕たち、バリバリ青春時代じゃん?今!!」
「ふふっ、確かに。」
「僕は君を今日、ちゃんと見れた気がするよ。」
「俺も、お前を見れた。」
「どうする?握手でもしとく?今後、変わろうとする決意に!」
「キスにしようぜ?」
「はぁ!?あははっ、絶対に嫌だ!!」
「クククっ。冗談だよ!俺だってゴメンだっての。決意の日を忘れないために言ってみた。」
「なるほどねっ。そんなこと言わなくても忘れないよ。」
サッと手をさしのべる。
「俺様と握手できるんだ、ありがたく思え。」
彼が僕の手を握る。
「その態度は、変えないの?」
「あぁ。だって、そこは本当の俺だしよ。」
「・・・どうやら、1回で理解してもらおうって考えは捨てた方がいいみたいだね。」
「だな。」
何年経っても青春!
学校を卒業したって、会社に入ったって、結婚したって・・・。
青春=年の若い時代。人生の春にたとえられる時期。
そんな言葉の定義はいらない!!
僕たちはきっと、そんなの無視して走りだせる。
このまま先も、ず〜っと。信じて疑わなければ・・・・。
微妙か?(笑)
跡部と不二って、どう考えてもあんまりつながりなさそうなので・・・。
こういう話から作るのがいいかと思ったので。