雨宿り




「わ〜・・・すごい雨。」

僕は今日、都心に写真展を見に来ていた。
今日の降水確率は20%!
天気予報のお姉さんの言葉を信じて、傘を持っていなかった。
が、しかし・・・写真展会場を出た直後、雷鳴と共に大粒の雨が降り出したのだ。

「どっかで・・・あまやどりしよ。」

僕は走って、どこか屋根がある場所を探した。
オフィスビルが立ち並ぶ街。
ビルの中には・・・何だか入れない雰囲気だし、だからといって雨を凌げるような場所は見当たらない。
それに・・・ここには初めて来たんだ。
困ったなぁ。


「・・・青学の天才が何してんだよ?」

走る僕を止めたのは、聞き覚えのある声。

「・・・跡部?」


氷帝の跡部景吾。
僕は・・・苦手なタイプかもしれない。



ザーザー振り続ける雨



「君こそ・・・何して・・・」

「濡れてんぞ!こっち来い!」

「っ・・・痛っ。」

彼は僕の腕をおもいっきり引っ張った。
たぶん力の加減を間違えたのだろう。
僕は跡部の傘に、勢い余って彼に抱きつくような形で入った。

「・・・・。」

「あっ・・・ごめん。」

僕は慌てて体勢を整える。

「っと、危ねぇ!」


ツルツル滑る道。
僕は転びそうになった。
しかし、跡部が僕を支えてくれたおかげで、転ばずにすんだ。

「あ・・・ありがとう。」

もっと、とっつきにくいやつかと思ってた。2度も助けられて僕は笑顔で礼を言った。

「ふん。お前、何してんだよ?」

「あぁ、写真展を見にきたんだ。」

「あぁ、シビリア公会堂でやってるやつか?」

「そう!!あれ?跡部も写真好きなの?」

「いいや・・・俺の親父の会社が主催者側のメンバーなんだよ。」

「なるほどね・・・で、君は何をしてるんだい?」

「俺様は、別宅が近いからな。別宅から家に戻るところだ。」

「こんなオフィス街に家なんてあるの?しかも、別宅って・・・。」

跡部が何故だか僕を見つめる。

「・・・何?」

「・・・お前・・・びしょぬれだぜ?・・・」

跡部が僕の髪を触る。

「水も滴るイイ女とは・・・このことだな。」

「・・・僕、男だけどっ?」

ちょっと怒った。
すると彼は、悪い。褒めてんだよ。っと言って、歩き始めた。
傘に入っている僕も彼に従い歩きざるをえない。


「・・・どこへ行くの?僕、駅に行きたいんだけど。」

「俺の別宅。体拭けよ、そこで。服も貸してやるから。」

「大丈夫だよ!透けるほど濡れてないし。」

「ダメだ。」

「平気だってば!・・・・・・っクシュ。」

「・・・ったく、頑固だな。くしゃみしてんじゃね〜か。」

「・・・。」


会場を出てから、跡部に会うまでの時間は短く感じていたけど・・・
大粒の雨にやられていたらしい。
少しずつ・・・体が寒いような気がしてきた。


「・・・寒いのか?」

跡部が着ていた長袖の服を僕にかけてくれた。

「あっ・・・大丈夫・・・」

「バーカ。強がんな!震えてんだろーが。」

跡部が僕の肩を抱く。

さすが、200人の部員を率いていた男だ。
よく人を見ている。
もっと恐くて・・・自分中心で・・・ナルシストで・・・・
人のことなんか考えないやつだと思ってたけど・・・跡部は案外、優しい。

「ありがとう。」




そうこうしているうちに跡部の別宅に着いた。

「跡部坊ちゃま!?どうしたんです!?」

「あぁ・・・濡れちまったから戻ってきた・・・風呂沸かしてもらえるか?それと・・・コイツに合う服を・・・。」

「お、お邪魔しま〜す。」

「畏まりましたわ。部屋でお待ちくださいませ。」


跡部の部屋は3階にあった。
ヨーロッパの宮殿を思わせるような作り。跡部にピッタリ。

すぐに女の人が服を持ってきてくれた。
跡部のだから・・・ちょっと大きい。

「ごめんね、跡部。何か・・・迷惑かけちゃって。」

「気にすんなよ。・・・風呂は?」

「あ、いいよ。」

「・・・一緒に入るか?」

「クスっ。冗談言って・・・」

跡部が僕を真顔で見る。

「あと・・・べ?」

跡部は僕に近づく。

そして、僕を壁へと突き飛ばした。

「痛っ・・・もう、何す・・・」

不意に、彼の唇が僕の唇と合わさる。



しばらくして、すっと彼が離れた。


「・・・・、何?」

「随分と冷静じゃね〜か。怒んね〜のか?」

「・・・・どうしてキスしたんだい?」

「・・・綺麗だったから。」

「・・・・。」

「気の迷いだ!ほら、風呂入ってこいよ。髪濡れたままじゃ風邪ひくぞ!」

「・・・・うん。」





雨は・・・心を惑わせる神秘の滴。

跡部が僕を綺麗だと言った・・・。

僕はキスしてきた彼を怒らなかった。

彼の想いは?

僕の・・・想いは?

ザーザーと降りしきる雨。

僕らの心は魔法にかかるのかもしれない。













いいところでやめました。
もっと発展させようかと思ったけど・・・さ。
じれったい話しが好きなのでv