気高き敗者
僕は、ある人の家の近くにいた。
試合が終わった後・・・現地解散になったものの、どうしても・・・
どうしても自宅に戻る気がしなかった。
すごい試合だった。
手塚と跡部。
部長同士・・・実力者同士のぶつかり合い。
ギャラリーを圧倒する。
どっちが勝っても、どっちが負けても・・・おかしくない試合だった。
そう、できればずっと・・・見ていたかった。
でも、僕はいち早く気がついてしまった。
跡部の作戦に・・・。
彼は、人の弱点を見抜く目が人一倍鋭かった。
そう・・・彼は持久戦で手塚の肩を潰す気でいたのだ。
それを知り、動揺する青学の面々。
でも・・・僕は真剣勝負とは、こういうものだと思っていた。
海堂も・・・越前も・・・みんなそう理解しただろう。
この痛みは、何だろう?
真剣勝負だと思っていても・・・・胸が苦しい。
跡部を非難する気は全くない。でも・・・
とても彼の苦痛な顔を見ていられなかった。
いつもクールな君だから・・・肩への痛みの強さが伝わってきた。
僕は・・・・。
「不二?」
突然、声をかけられて驚く。
「手塚・・・。」
肩に負担をかけないよう、病院でサポーターをもらったようだ。
その姿すら痛々しい。
「お前・・・どうして・・・」
「大丈夫?」
手塚の言葉を制して、僕は彼の腕を触る。
「あ・・・あぁ。たいしたことはない。」
「嘘つき。」
「・・・・。どうしてここにいるんだ?」
「・・・・。」
「・・・まぁ、いい。うちへ入れ。今日は誰もいないんだ。」
スタスタ前を行く彼の背中を追って、僕は彼の家に入る。
彼の家は、僕の家とは正反対の和風の家。
何だか、和む。
彼の部屋は、とてもシンプルなものだった。
たくさんの本、釣りの道具がきちんと整頓されていて、
ルアーのコレクションなんかもある。
彼の部屋を眺めていると、彼がお茶を持ってきてくれた。
「ありがとう。この写真・・・」
「あぁ・・・今までに登った山の写真だ。」
「登ったの!?すごい・・・綺麗な写真。」
「お前は、本当に写真が好きなんだな。」
「うん!」
僕は、にっこりと微笑み、写真を見ていた。
窓から、涼しい風がはいってくる。
髪がサラサラと揺れる。
「・・・不二?」
「んっ?」
「・・・・。」
「何?」
「あ・・・いや・・・。」
「どうして君の家の前に居たかって?・・・・君を・・・」
僕は、まっすぐに手塚の目を見る。
「君を待ってたんだ。」
「・・・どうしてだ?」
「わからなかったから・・・・。」
「・・・何がだ?」
「・・・。どうして、君はあそこまでして勝ちにこだわったの?」
「・・・・。」
「君もわかっていたんだろ?跡部の作戦を・・・・。
持久戦に持ち込んで、君の腕を潰そうとしたんだ!どうして・・・
どうして棄権しなかったの!?・・・棄権したって、誰も君を責めなかった・・・。」
涙が・・・涙が堪えきれずに僕の頬をつたう。
「・・・全国区レベルの戦いでは、こういうことは多々ある。わかってるさ。勝負とは・・・そういうものだって。
でも・・・でも・・・」
止まらない。拭いても拭いても・・・こぼれおちる涙を止められない。
「・・・っつ・・・ごめ・・ん・・。こんな・・・っ・・・泣くつもりじゃ・・・。」
手塚から顔を背ける。
こんなの・・・格好悪い。
中学に入って、泣いたことなんて、めったにないのに・・・どうしたんだろう?
背後に人の気配がする。
腕を引っ張られて、僕は振り向く。
僕の唇に手塚の唇が合わさる。
そして、ふわっと手塚は僕を抱きしめる。
「手塚っ!?」
ビックリしている僕に構わず、
手塚は僕の頭を自分の方に押し付ける。
「もう、泣くな。・・・な?」
いつもとは違う優しい声で・・・思わず僕はドキっとする。
「だ・・・だって・・・。」
「お前なら・・・どうしていた?」
「えっ?」
「お前が、もし俺だったら・・・どうしていたんだ?棄権していたか?」
「僕・・・だったら?」
もし僕が、あの状況に置かれていたら・・・・
「た・・・たぶん・・・棄権して・・・ない。」
「そうだろう?それと同じだ。だから、俺も試合を続けた。」
「でも、理由がわからないんだ。・・・棄権なんて・・・しない・・・よ。でも・・・」
僕は手塚を見上げる。
手塚は優しい目で僕を見る。
彼の手が僕の頬を触り、流れ落ちる滴をぬぐう。
「そのうちわかる。」
「・・・・。」
「だから、泣くな。」
再び、手塚は僕を抱きしめる。
僕が落ちつくまで・・・彼はそうしていてくれた。
答え。・・・手塚が勝ちにこだわった理由を・・・・僕は、立海戦で理解することになる。
ちょっと、ありがちな話(笑)
心配で泣いてたってのもあるんだけど・・・うまく書けなかった。
塚不二も好きです。
あの2人・・・絶対にもっとエピソードがあると思う。