君への言葉





手塚が九州へ行くことになったと聞いて、僕は少し混乱した。

確かにボーリングで乾汁を飲んで、気分が悪かったというのもあるけど・・・

クラクラして倒れそうなほど、締めつけられる、この胸の痛みは何だろう?


君と離れたくない。


でも、決意した君を引き止めることなんて僕には出来なかった・・・・。
















「具合はいいのか?」

「あ、うん。僕、実はお酢が少し苦手なんだ。それで・・・。」


ククっ。
めったに笑わない手塚が、声をもらす。


「笑わないでよ。」


微笑む君。
夕方の涼しい風が街路樹の葉を揺らす。
ちょっと拗ねる僕を、なだめるかのように手塚は僕の手を握る。


「・・・手塚?」


彼にしては、珍しい。
いつもは恥ずかしがって手なんか繋がないのに・・・。


「すまない。」

「・・・何が?」

にこっと微笑みかけたけれど、内心では今にも泣きそうだった。
彼の言いたいことが、もうわかっていたから・・・。

僕は君を責めなかった。
僕に相談もなしに、九州へ行くことを決めた君。
いきなり聞いたときは、さすがにビックリしたけど・・・
一番つらいのは手塚だから・・・
僕は小さい子のように駄々をこねて、君を困らせたくなんかなかった。


黙って僕の手を引く。
前を見る君、うつむく僕。

君の姿は尊くて・・・近いようで遠い存在。

明日からは・・・本当に距離が離れてしまう。




君が僕を連れてきたのは、青学からほど近い公園。

「不二・・・?」

君が僕の頬を触り、声をかける。
それで初めて僕は自分が下を向いていたことに気がついた。
君に心配をかけたくなんかない。

「あ、ごめんね!何っ?」

今までで1番の笑顔を見せた。
見せたはずだった。

「そんなに悲しそうな顔をするな。」

悲しそうな顔・・・?
笑ってるはずなのに・・・。

「何が?僕、悲しくなんてないよ。また・・・戻ってくるんだよ?君は。九州だって行こうと思えば行ける距離だし・・・。」

急に僕は大きな君の胸の中へと包み込まれる。

「全国大会への切符・・・絶対に手に入れるから・・・。僕は・・・僕は負けない。」











翌日、君は本当に東京を発った。
最後の見送りには、みんなもいたから・・・たいした言葉はかわさなかった。
みんながいてくれてよかった。
みんながいてくれた方が、笑って手塚を見送れる。
今にも泣き出しそうな、この心のうちを手塚に気づかれずにすんだから・・・。





君の威厳のある声。
堂々とした態度。
すべての人を惹きつけるテニスプレー。
僕に見せる笑顔。
痛いくらいに抱きしめる腕。
優しいキス。




すべてが好きだから・・・・。




会いたい。

会いたい。

アイタイ。

側にいてほしい。

僕の近くに・・・・。



そんなこと、絶対に言えない。

流れ落ちる涙。
君に会いたくて・・・
何度も
何度も書き直した手紙は、まだ僕のポケットの中。


出せない手紙。
でも・・・捨てられない手紙・・・・。




















本当に短いけど・・・(笑)
不二は絶対に我慢するタイプの子だと思う。
手塚への想いが交錯している感じを描きたかった。
そうそう!本文中のどこかが不二が九州にいる手塚へ書いた手紙の内容なんです。
何度も・・・何度も書き直したけど・・・出せない手紙。
さぁ、その内容部分はどこでしょう?(笑)