ケンカをしたのは、いつのことだろう。


「お前、俺様のこと本当に好きか?」

「・・・・?何を今更言っているんだい?」

「この前の試合のとき・・・ほら・・・猫みたいな・・・菊丸と一緒にいたじゃね〜か。女みたいに仲良すぎだぜ?気持ち悪い。」

「クスクス・・・やきもち?」

「そんなんじゃね〜よ。」

「クラスメートと部活仲間だから仲が良いだけだよ?」

「うるせーよ。お前は俺様だけを見てればいいんだよ。」

「・・・跡部は、いつのこうなんだから。」


ため息まじりにクスクスと余裕たっぷりに笑う不二。


「あ〜もう、いい。俺様は帰るぜ!」

「ど〜ぞ、ご勝手に。氷帝の気高き部長様!」

「ふん、わかってんじゃね〜か。だったらな・・・」

「あ〜もう、はいはい。僕も帰る。君がそんなに聞き分けのない人だとは思わなかったよ。」

席を立つ不二。先を越された・・・。



「君は・・・・僕のこと本当に好きかい?」

「・・・?お前、何言って・・・」

「何でもないよ。じゃぁね。」


俺が、嫉妬して・・・・ケンカになった。
俺だけの不二でいてほしかったから・・・・。
そのせいで、しばらく不二とは会っていない。
俺様から謝るのは癪だし・・・だからといって、案外意地っ張りなあいつから折れてくるとも思えない。


授業中、窓の外を眺める。
爽やかにサワサワと吹いている風なのに・・・・
ザワザワと揺れる木々。
何だか胸騒ぎがした・・・嫌な予感がする。


・・・俺は気づいたら・・・やつの通っている学校にいたんだ。







―優しい風にふかれて―  前編






青春学園。
氷帝からは・・・少し遠いところにある。
しかし、立海や六角中と比べたら近い方だろう。

今日は、氷帝ではありがたいことに部活がなかった。
だから、5時間目の美術をわざわざふけて青学に来てやったんだ。

おそらく青学では、そろそろ部活の時間だろう。
俺は堂々と青学の敷地内へと足を踏み入れた。

まずは、テニスコートを探さないと・・・・

不二を迎えに校門までは来たことがあったが・・・・中に入るのは初めてだ。

パーン・・・パン


左側からかすかにボールを打つ音が聞こえる。
俺は迷わず左側を歩いていった。

途中、すれ違う生徒は制服の違う侵入者の俺をじろじろと見てきた。
俺様に惚れんじゃね〜ぞ?とでも言ってやりたかったが・・・
胸騒ぎがそれを制した。

この胸騒ぎは、何なのだろう?




「不二・・・・。」

「不二は、今日は来てないにゃ。」

「!?」

後ろからの声に思わず振り向く。
声をかけてきたのはアクロバティックで有名な菊丸英二だ。
横には、2年の桃城もいる。


「何やってんだお前ら。部活中だろ?」

「今は休憩中なんっすよ。それより・・・氷帝の部長さんがどうして青学なんかにお越しで?」

「あぁ・・・・」

「あとべ〜、不二に会いに来たの?」

「違う。ちょっと監督に頼まれてな・・・・」

嫌な予感がして、不二の様子を見に来たなんて・・・死んでも言いたくない。

「職員室なら、校舎の中っすよ?」

「もう、用は済んだ。テニスをしている音がしたから・・・様子を見に来ただけだ。」

「やっぱ不二に会いに来たんじゃ〜ん。」


こいつは・・・・
そう、確か不二と同じクラスだったな。
たぶん、俺と不二が付き合ってることをやつは知っているのだろう。
少し前は、俺様をこわがっていたようなのに・・・今じゃ、この対応だ。
不二から俺の話しでも聞いている証拠だろう。
あまり他言するなと言ったのに・・・。


「桃城、少し席を外してもらえね〜か?こいつと2人で話がしたい。」

「あっ・・・はい。英二先輩!先に戻ってますね。」

「わかったにゃ。」


桃城は走ってコートの方に戻っていった。

心地よい風が、そよそよと吹いている。



「お前・・・」

「不二がね・・・・」

しゃべろうとした俺様を遮って菊丸は話しだした。

「ずっと落ち込んでたんだ。俺に嫉妬したんだって?」

「してね〜よ。」

「ま、いいや。でも・・・俺は不二の友達だから。ただの友達ねっ?」

「・・・・。」

「どうせ、試合会場で仲良くしゃべってるのを見たとかでしょ?」

「・・・・。」

「不二はね、跡部のことが大好きなんだよ?その気持ちを疑うのはよくないにゃ。」

「別に疑ってない。元はと言えば、お前が不二と・・・・」

「じゃ、跡部は誰とも話さないの?」

「はぁ!?」

「あとべ〜も・・・忍足くんとか、宍戸くんとか・・・仲良く話すでしょ?それと同じってことだよ。」

「・・・・。」

「不二は、友達と話しをしていただけなんだにゃ。わかってくれた?」

いつもなら、もっと反論してやるところだが・・・
もっとお気楽やろうかと思っていた菊丸が穏やかにまともなことを言うから・・・
ついつい納得してしまう。



「不二が・・・落ち込んでたって?」

「・・・うん。あまり打ち明けてくれないんだけどね、こういうこと。不二は。でも、今回はポロっと言ってきたから・・・」

「どうして・・・」

「不二は跡部のことが大好きで・・・好きで好きで仕方がないのに・・・。不二に言ったでしょ?俺のこと本当に好きかって。」

「・・・あぁ。」

「自分の気持ちが伝わってないのかな?って・・・・跡部に信じられてないのかなって・・・そう言ってたよ?」

「・・・・。不二は?どこにいるんだ?」

「だから、今日は休みだって!」

「!?休み?部活をか?」

「いや、学校来てないの。たぶん風邪だと思うよ。ずっと調子悪そうだったから。
 不二、周りに気を遣ってあんまり弱さを見せないけど・・・本当はすごくナイーブだと思うんだにゃ。」

「知ってる。」

「跡部のこともあって・・・なかなか寝つけなかったみたい。ずっと辛そうだった。
 メールしたんだけど・・・返ってこないから・・・寝てるのかも。」


ザワザワザワ

高鳴る胸騒ぎ。

不二・・・・。


「行ってあげて?」

「わかってる。菊丸・・・悪かったな。」

「不二に謝るにゃ。」

「・・・あぁ。」





逆風の中、俺は青学の校門までの道を走った。
不二の家は知っている。
ここから、あいつの家に行く方法も・・・。


早く・・・早く・・・・。

あいつに会いに行かないと・・・・。


長い道のり、バスに乗っている間も・・・不二のことが気にかかる。

今日は・・・素直になろう。

そう決意してバスに揺られていた・・・・。









洋風の豪華な家。
不二がいるのは2階。薄暗い・・・・。
いつだかあいつが言っていた。
普段はいつも皆出かけていまっていて、家にあまり人がいないと・・・。

ピ〜ンポ〜ン

インターフォンがやたら大きく響く。
反応はない。

ピ〜ンポ〜ン

もう1度押してみる。
反応はない。
他の家族は外出しているようだ。
もしかしたら、不二も寝ているのかもしれない。



ザワザワザワ



それでも、諦めきれなかった。
ドアノブを握り、ドアを引いてみる・・・


ガチャ


「・・・・開いた・・・・。」


鍵をかけ忘れるなんて・・・無用心だな。

「・・・・お邪魔します。」

玄関には、男物のくつが1足置いてあった。
父親は確か、単身赴任。弟はルドルフ・・・あそこは寮だ。
この家にいるのは・・・どうやら不二1人のようだ。
間違いなく不二はいる。

「・・・・不二?」

2階へと上がる。
この家には来たことがある。あいつの部屋も知っている。


カチャッ


不二の部屋のドアを開ける。

「不二?」

ベッドには不二の姿はない。
しかし、明らかに人が寝ていたように布団が乱れている。


「・・・・飲み物でも取りに下に降りたのか?」



今度は下へ行く。


カチャ


ドアをあけるとそこは、ダイニング&リビングルームだった。
レンガ作り。
壁には絵画がかけてある。



はぁ・・・・はぁ・・・



苦しそうな息遣いが耳に入る。
どうして俺は気がつかずに2階へ上がってしまったのだろう。
窓側のソファーの横に・・・・・不二がうずくまっているのが見えた。




「不二!!!!」










私、不二くんはか弱いというイメージがあるんです。
原作では、かなり丈夫な子だけど!(笑)
故に、よく倒れているはず。(笑)