―優しい風にふかれて― 中編
「不二!!!」
うずくまる不二に駆け寄る。
体育座りをして、顔をヒザに埋めている。
「不二?・・・・不二っ?・・・おい!不二っ?大丈夫か?」
「はぁ・・・・はぁ・・・」
隣にしゃがんで、肩を揺すりながら声をかける。
不二の体はとても熱かった。近くにしゃがみ、肩を揺すっただだけなのに・・・。
不二は返事をしない。
聞こえるのは、苦しそうな呼吸のみ。
「おい・・・?」
声をかけ、もう1度肩を揺すった瞬間・・・
不二はグラっと、俺の方に倒れてきた。
「っと。」
瞬時に俺は右腕で不二を抱きとめる。
「・・・お前・・・・。」
不二は意識を失っているようだ。
目を閉じて、苦しげ呼吸を繰り返している。
何といっても、顔色が悪い。色で表すと赤褐色といった感じだろうか。
ソファー近くのテーブルの上に水が置いてある。
水を飲みに下におりてきたのだろう。
「ったく・・・家族はいね〜のかよ。」
俺は不二を抱き上げる。お姫様抱っこというやつだ。
サラサラの髪が汗ばんで少し湿っぽい。
服は、パジャマを着ているが・・・汗をかいているのがわかる。
ぐったりとしている不二。
普通、ぐったりとし、力の抜けている人間は重いはずなのに・・・不二はとても軽い。
あまり物を食べていなかったのだろうか?
ケンカ別れをする前より痩せたように見える。
とりあえず、俺は不二を2階の不二自身の部屋へ運び、ベットへ寝かす。
医者を呼んだほうがいいのだろうか・・・
窓から、ふわっと風が入り・・・パラパラとノートか何かがめくれる音がする。
ふっと不二の机を見ると、そこには風邪薬の袋と空のペットボトル、体温計が置いてあった。
「・・・医者には行ったということか。」
「はぁ・・・はぁ・・・」
苦しそうな不二の息。
俺はとりあえず体温計に手を伸ばし、不二の体温を計る。
パジャマのボタンをはずす。
白い体が目に入る。
「着替えさせないとダメだな・・・あと・・・。」
風邪薬の入った袋を開けてみる。
表に書いてあるのは、今日の日づけ。午前中に行ったのだろうか?
朝・昼・晩の食後に飲むようにと指示がある。
しかし、薬はすべてきれいにそろっており、1粒も飲んだ様子が見られない。
俺は下におりて、水分とヨーグルトを用意し、洗面所から水の入った洗面器とそこにあった小さいタオルを数枚持ってきた。
机からベッドまで距離があるので、テレビのリモコンが置いてあるミニテーブルに物を移して、
ベッドの近くにすべてのものを持ってくることにした。
ピピピッ
体温計の音がする。
「・・・・39.4・・・。」
高熱だ。とりあえず、何か食べさせて薬を飲ませないと・・・・。
タオルを水で濡らして、不二の額におく。
ピクっと不二が反応したのがわかった。
「不二?・・・不二?起きろ!不二?」
「・・・んっ・・・あ・・・あと・・・べ・・?」
「そうだ。起きれるか?だるいだろうが、薬を飲んだほうがいい。ヨーグルトとか・・・食べれるか?」
「・・うん。」
自分の力では起き上がれないようなので、腰を支えて起き上がらせる。
「俺に寄りかかれ。」
「んっ・・・・はぁ・・・なん・・・で・・・?っつ・・・」
「どうでもいいだろ?苦しいなら、しゃべるな。ほら、口開けろ!あ〜ん。」
「ん・・・。」
微かに口を開ける不二にヨーグルトを入れていく。
ゆっくり・・・ゆっくり・・・
「・・・ゴホゴホっ。」
咳をする不二の背中をさする。
「平気か?」
「・・・だ・・・だいじょう・・・コホっ。」
「・・・ゆっくりな。・・・薬飲めよ。ほら、そうしたら少しは楽になる。」
「くす・・・り?」
「そうだ。自分で・・・飲めそうもないな。」
俺は自分の口に薬と飲み物を含む。
そして、不二に上を向かせ、不二の唇を俺のと重ねさせる。
「・・・っつ・・・・」
コクっ
薬を飲み込んだのがわかる。
「よし。・・・もう少し水飲め。」
「じ・・・自分で・・・飲む・・・。君、強引・・・・。」
「・・・ククっ。何だ、少しはしゃべれるようになったじゃね〜か。あーん?気分は?」
持ってきた水の入ったコップを渡してやる。
「・・・クラクラ・・・。あと・・・咳が・・・」
どうやら、頭がクラクラする。咳がひどい・・・ということを言いたいらしい。
最初より話はできるが・・・そうとう辛そうである。
両手でコップを持つ不二。数回、間をおいて水を飲む。
しかし、何回目か・・・不二が、水を自分の口に移そうとした瞬間・・・
「ゴホっ・・・ゴホゴホゴホ・・・はぁ・・・ゴホゴホ。」
「不二!」
水をうまく飲めずに、むせてしまったらしい。
ベッドに転がったコップをミニテーブルに戻しつつ、不二を抱きしめるように支える。
「ゴホゴホ・・・ゴホゴホっ。」
「落ち着け、ゆっくり呼吸をしろ。ゆっくり・・・・そうだ、ゆっくり・・・。」
不二の背中をさすりながら、自分も呼吸をゆっくりにする。
相手が不安にならないようにだ。
「はぁ・・・っはぁ・・・。」
「水・・・飲んだ?・・・もう少し飲むか?」
「はぁ・・・いい。・・・結構・・・むせる前に・・・」
「あぁ、むせる前に飲んだのな。じゃぁ、次、着替えるぞ。・・・お前、他のパジャマどこにある?」
「・・・クローゼット・・・。前・・・はぁ・・・。」
ベッドのまん前にクローゼットがあるのがわかった。
俺は不二を枕を高くして、後ろにもたれさせ、服を取りに行った。
適当に探していたら、代わりのパジャマが見つかった。
青いチェックのパジャマだ。
「・・・自分で、着替えるか?」
「・・ばか・・当たり前!・・・はぁ・・・。」
上着のボタンをはずす不二。俺は、濡れタオルと新しい上着を渡してやる。
自分でも、濡れタオルを持つ。
「体拭けよ。汗すごいだろ?」
「ん・・・。」
不二の体は薄く、白く、細く・・・・。
熱を帯びている。
そっとタオルで体を拭いていく。
「・・・お前、ちゃんと食事してんのか?」
「・・・してる・・よ。・・・はぁ・・でも、母さんと・・・姉さん・・・っつ・・・旅行、行ってて・・・はぁ・・・。」
「はぁ!?お前、呼び戻せよ。連絡したか?」
「・・・してない。・・・せっかくの旅行・・・だよ?・・・楽しませて・・・あげたい・・。」
にっこりと不二は笑った。
こいつは、どこまでお人好しなんだ?まったく・・・。
「いつまで?」
「明日の・・・お昼に・・・」
明日は土曜日、学校はない。
「帰ってくるのな?・・・お前・・・俺にぐらいメールしろ。・・心配しただろ?」
「・・・うん。でも・・・。はぁっ・・・。」
「・・・苦しいのか?」
「・・・さっきより・・・楽だよ?・・・大丈夫・・・。」
話している間に着替えが終わった。
俺はやつが脱いだパジャマをたたんでやる。
すると、不二が俺に寄りかかってきた。
珍しい・・・。
人前でも・・・2人きりの時でも、その時々の気分によってベタベタするのを嫌う俺の性格を知ってか、
不二から甘えてくることは、めったになかった。
「・・・?・・・どうした?」
いつにもなく、優しい声で不二の甘えに応えてしまう。
「ゴホッ・・・今日・・・は・・・本当に・・・優しいね?」
「バカ。いつも優しくなんかしてたら、俺様のありがたみを忘れるだろ?」
「クスクス・・・・っコホっ・・・コホコホ・・・。」
「・・・。だるいんだろ?寝てろよ。」
「もう少し・・・ゴホゴホっ・・・このままで・・・いたい・・・。」
「・・・・。」
そよそよと風が入ってくる。
時刻は午後5時。日が長いので、外はまだ明るい。
しばらくの間、ぼーっとしていると・・・
隣にいる清らかな少年から、スースーと寝息が聞こえてきた。
「・・・薬が効いてきたのか・・・。」
不二を寝かせる。
顔色は最初にくらべたら、幾分いいようだ。
タオルを額にのせて、不二の髪を触る。
不二はまるで白雪姫のように、深く・・・深く・・・眠りについているようだった。
「お前・・・誰か呼べよな?・・・倒れるまで我慢しやがって・・・。俺が来なかったらどうするつもりだったんだよ。」
スヤスヤと眠る不二。
時折、タオルを変えてやる。
俺が看病なんかするなんて・・・自分でもビックリだ。
「そろそろ・・・洗面器の水を変えるか・・・・。」
水がぬるくなっていたのだ。
洗面所に向かおうと立ち上がる。
しかし・・・・・
「や・・・だ。」
不二の声に俺は思わず、立ち止まる。
前編と後編にしようと思ったら・・・終わりませんでした!(笑)
跡部は、不二が弱っているときに冷たくするような男じゃない。
いつもより優しくね?
してあげられる人だと思う。