―優しい風にふかれて― 後編
立ち上がろうとした俺を・・・不二の声がくいとめる。
「や・・・嫌だ・・・。」
「不二?」
「・・・行かないで・・・。」
「・・・不二?」
不二が寝返りをうつ。
ドアのところに立っていた俺の方に来ようと、不二はだるそう起き上がった。
熱のせいなのか・・・夢と現実の境がわからないような顔をしている。
「・・・うっ・・・。」
ドサっ
「おい!バカ、寝てろ。」
立ったところで足元がふらつき、床に崩れそうになるのを、俺が瞬時に戻って抱きかかえる。
不二の手が俺の肩に伸びる。
「行っちゃヤダ・・・はぁっ・・・父さんも・・・母さんも・・・裕太っも・・・はぁ・・・姉さんも・・・・。
どうして・・・?どうして・・・?・・・跡部・・・も?・・・行っちゃヤダ!・・・」
不二の目から涙が伝う。
「僕の・・・側に・・・いてよ。・・・やだ。・・・行かない・・・でよ・・・。」
俺の服をつかんで話さない。
どうやら家族や俺が自分から離れていく夢をみていたらしい。
目が覚めた今も・・・夢の続きだと思っているみたいだ。
こんなことを言うのも・・・初めてだ。
不二はいつも自分の弱さを見せない。
ぎゅっと・・・・華奢な不二を抱きしめる。
離さない。・・・離したくない。
「おい。・・・不二?ここは夢の中じゃない。俺はここにいる。どこにも行かない。」
「・・・はぁ・・・あと・・・べ?」
「んっ?」
「・・・側に・・・」
「あぁ。側にいるよ?大丈夫。1人なんかにしない。」
「・・・ほんと・・・?」
「あぁ。俺様は嘘はつかないぜ。お前、混乱してるだろ?わかってるか?ここは夢じゃないぞ?」
「んっ?・・・・・・・ゴホゴホっ。」
背中をさすってやる。
「深呼吸しろ。・・・落ち着け。・・・そう、ゆっくり呼吸して・・・。」
「はぁ・・・はぁ・・・。」
「大丈夫か?」
「僕・・・?」
「待て。ベッドに戻ろう・・・な?」
「跡部・・・も。」
「ん?」
「一緒に・・・・・。」
「・・・わかった。添い寝してやるから・・・。」
不二を抱っこし、ベッドに戻す。
俺も一緒に布団の中に入る。
まだまだ体が火照っている不二を胸に抱く。
不二が擦り寄ってくる。
離さないように・・・強く抱きしめた。
「・・・みんなが・・・どこかに行く夢・・・」
「離れてく夢を見てたんだろ?」
「・・・うん。コホっ。・・・こわか・・・った。」
「・・・こわい?」
「うん・・・愛されて・・・ないんじゃないか・・・って・・・。こわかった・・・。」
「・・・・。」
「あと・・・べも・・・。どっかに・・・行っちゃう夢で・・・。」
ぎゅっと俺の服を握ってくる不二。
不二の・・・気持ちがやっとわかった。
外出の多い家族。
家族が全員揃うのは、めったにないことだろう。
寂しいのに・・・不二はいつも我慢していたんだ。
甘えることもなく、家族に迷惑のかからないようにしていたんだ。
そして、唯一甘えることのできる恋人の俺にまでも・・・。
そして時々、思っていたのだろう。
自分は本当に愛されてるのかって・・・。
「俺は・・・お前のこと好きだから。離れないし・・・これからは、もっと甘えろ?」
「・・・えっ?」
「ずっと我慢してたんだろ?寂しいときも・・・甘えないで、迷惑かけないようにって。
いつも笑顔でその気持ち隠して・・・。
俺には迷惑かけてもいいんだ。家族にだって・・・友達にだって・・・・なっ?」
「・・・ふふっ・・・跡部・・・優しい。」
「うるせーよ。」
「クスクス・・・照れ・・・てる・・・の?・・ゴホっ。」
「ほら、一緒に寝るぞ。お前、カイロみたいだぞ?熱がまだある。気分悪いんだろ?」
「・・・だいじょう・・・。ゴホゴホゴホ・・・。」
「大丈夫じゃない。いい子にしてやがれっての。」
俺は不二を抱きしめながら、トン・・・トン・・・っと背中を軽くたたいてやる。
俺を不二が見つめる。
潤んだ・・・子犬のような目・・・
俺はおでこに・・・頬に・・・そして唇に・・・キスをしてやる。
「・・・はぁ・・・。」
甘い吐息が漏れる。
この弱っている子犬を・・・守るように
何回も・・・何回も・・・
次第に、またスースーという一定の寝息が聞こえてきた。
俺の服を離さない、ナイーブな恋人は安心しきって眠ったようだ。
その姿がいとおしくて・・・
起こさぬよう、髪をなでる。
「ごめんな・・・不二っ・・・。」
もう夜なのだろうか・・・
風が少し肌寒い。
でも、抱き合っているので、ずいぶんと体と心は暖かかった。
スー・・・スー・・・
咳もなく、気持ち良さそうに眠る不二。
ウトウトと・・・・俺にも・・・睡魔が襲ってきた。
まだ・・・このかわいい恋人を見ていたいのに・・・。
さわさわさわ・・・風のにおい
「んっ・・・・?」
窓からは日差しが差し込む。
時計は8時を指している。どうやらあのまま眠ってしまったらしい。
「朝・・・か・・・。・・・不二っ!?」
ベッドに不二の姿がないことに気がつく。
どこに行ったんだ?
急いで、階段を駆け下りる。また、無理をしているかもしれない・・・。
「おはよう!跡部。コホっ・・・そろそろ起こそうと思ってたんだ。」
ダイニングに行くと不二の姿があった。
よかった・・・。
「朝ごはん・・・食べるよね?」
不二の言葉を無視して近づく。
俺は、不二を抱きしめ、キスをする。
「クスクス・・・どうしたの?・・・ゴホゴホ・・・。あんまり・・・僕に近寄ると風邪うつっちゃうよ?」
額に俺の手を乗せる。
「熱・・・まだ少しあるじゃね〜か。寝てろよ。」
「うん・・・でも、37.8くらいだから・・・昨日よりマシ。それより、うつっちゃうって!」
俺から逃れようとする不二をいっそう強く抱く。
「もう、昨日の時点で一緒の布団で寝てんだ。もう手遅れだぜ・・・。」
「クスクス・・・・それも・・・そうだね。」
1階にも涼しい風が入ってくる。
外はいい天気のようだ。
鳥の声が聞こえる。
近所の人たちの声も少し・・・・。
静かな空間。
「ごめんね・・・?」
「はぁ?」
「・・・僕の看病してくれて・・・僕が、一緒にいてなんて言わなかったら・・・」
「黙れよ。俺はここに来た時から泊まるつもりだったんだよ。」
「クスクス・・・嘘つき。」
「うるせーよ。・・・弱ってるお前もかわいいぜ?」
「クスっ・・・もう、弱さなんかみせないと思うけどねっ?・・・ゴホゴホゴホっ。」
「座ってろ。俺様が用意する。」
「ふふっ・・・でも、どこに何があるかわかんないでしょ?ありがとう。でも、僕がやるよ。」
不二に1本とられて、少し悔しい。・・・まぁ、今日はよしとしよう。
昨日よりはいくらか元気な姿に、俺はほっと一安心する。
キッチンから、サラダを運んできた不二が訊ねる。
「・・・・そういえば、どうして・・・うちに来たの?」
「あぁ・・・」
謝りに来たんだ・・・と言おうとしたけど・・・やめた。
もう・・・十分にケンカの仲直りはできてるし・・・それに・・・
「伝えることは伝えたから、秘密だ。」
「・・・えっ?・・・どの言葉?・・・それに僕・・・頭が朦朧としてて・・・」
「秘密!」
「・・・。・・・クスっ・・・君はいつもこうなんだから・・・。」
優しい風がふく
ふわふわふわっと・・・
俺たちは、幸せな時間を過ごすんだ。
おしまいv(笑)
これから・・・家族が帰ってくるまでの話を書くかも。
でも、それは・・・underだな!(苦笑)
だって・・・せっかく作ったから作品増やそうと思って・・・(コラ)