―優しい風にふかれて― 続編:タイムリミット NO.1












不二は、相変わらず少し赤い顔をしている。

朝ごはん。
不二がパンとコーヒーと・・・サラダや果物まで用意してくれた。
俺は洋風なものが好きなので、快くそれを食べる。
昨日の昼から何も食べていなかったし・・・


昨日、授業中に嫌な胸騒ぎがした。

青学に行ってみると、案の定、不二は欠席。

そこで、不二の家に来てみると・・・
ソファーの横でぐったりとうずくまっている不二がいた。

俺は一日中、こいつの看病をしていて・・・
添い寝をしているうちに、夜が明けてしまった。

今日は土曜日。学校もない。
旅行に出かけている親は、お昼ごろに帰ってくるという。







「跡部・・・今日、部活は?」

「あぁ・・・午後からあるな。お前も何か食べろよ。」

真向かいの席に座って、俺の食べる様子をにこにこと見ているだけの不二に声をかける。

「うん・・・でも、食欲なくて。・・・さっきゼリー食べたし、大丈夫。」

「・・・気分悪いのか?」

「ん〜・・・体に力が入らないって表現が一番あってるかも。ちょっと・・・ふらふらする。
 あ、でもお風呂入ったから、水分はとったよ。」

「薬は?」

「飲んだ。」

「・・・じゃぁ、寝てろよ。」

「ん・・・でも、君と一緒にいたいんだ。」

「・・・・。バーカ。照れるようなセリフ言ってんじゃねーよ。・・・・てか、サラダ辛っ!」

「・・・辛い?僕はいつもその手製のドレッシングなんだけど・・・。」

「な、・・・何入れやがったんだよ。」

「キムチと唐辛子入りドレッシングだよ?洋風に合うでしょ?意外に。」

「・・・・お前の味覚にはついていけねー。」

「クスクスクス・・・コホっ。」


ったく、どこか少し抜けてんだよな〜、不二は。
不二はそんな俺をにこにこと見ている。何が面白いんだか・・・。
よく見ると、またパジャマが変わっている。
風呂に入った証拠だろう。
白い薄手の生地が、不二の雰囲気によく合っている。
少し熱を帯びてピンクっぽい体と合わさって・・・とても綺麗だ。


「跡部も・・・お風呂入る?ゴホゴホっ・・・一緒に寝たし・・・汗かいたでしょ?」

「そうだな・・・・。」

「じゃぁ、お風呂いれてきてあげる。・・・コホコホっ・・・僕、シャワーだったから。」

「バカ!風呂掃除なんかしたら、きっと頭クラクラするぜ?俺もシャワーでいい。」

「平気だよ・・・それくらい。」



立ち上がる不二。
立ち上がった瞬間・・・一瞬だが・・・不二はふらついたように見えた。
しかし、不二は全く平気な顔をして、俺の側をスタスタ通過しようとする。
行かすかよ。



俺は不二の右腕をつかんだ。



「・・・何だい?」

「・・・まだ調子悪いんだろ?」

「クスっ・・・君にしては、しつこいじゃない。・・・コホっ・・・大丈夫だっ・・・。」

「立ち上がった瞬間、ふらついてたのにか?」

「・・・インサイト?」



クスクスクスと不二はこらえきれないかのように笑っている。
ちょっとムカツいたが、こんなところでケンカをする気にもなれない。



「とにかくだ!お前、座ってるか、寝てろよ。」

「跡部はおとなしく、ごはん食べててよ。・・・時間ないでしょ?一度、家戻るの?」

「あ・・・あぁ・・・ユニフォームが家だ。昨日は練習なくてな。」

「あ・・・コホっ・・・だから、家に来てくれたの?」

「・・・あっても、来てたさ。」

「・・・クスクス・・・本当かな〜?」

「俺は嘘はつかねーよ。」

「ふふっ・・・・じゃぁ、おとなしく食べててね?」



不二は俺からスルっと逃れ、部屋を出て行った。
全くあいつは・・・
確かに昨日よりは、体調が良いようだ。
でも、あいつは無理をしても・・・それを周りにいつも悟らせない。
注意深く見てねーと・・・。













日差しが、ベランダから差し込む。
窓があいている。
風がそよそよと入り、カーテンを揺らす。




時計を見ると・・・もうすぐ9時だ。
たしか、お昼には家族が旅行から帰ると言っていた。
俺も・・・ここから自宅に帰るには、時間がかかる。
風呂を入ったら、帰るか・・・・。



トントントンっと・・・階段を下りてくる足音がする。





不二は勢いよく、ドアを開ける。



「服どうする?制服、汗ベタベタでしょ?」

「あ・・・。」

そうだ!俺は、学校が終わって不二の家に直行したから・・・制服なんだ。
すっかり忘れていた。

「よく、そんな格好で寝れたよね?ネクタイくらい、はずせばいいのに。ゴホっ。」

「・・・本当だな。不二の看病に頭がいってた。・・・・」

「制服の予備は家にあるんだろ?」

「あぁ。」

「じゃ、袋にでも入れて持って帰ればいいね。・・・問題は、帰るときの服!・・・コホっ・・・僕のじゃ小さいし・・・。」

「お前の、弟のは?」

「裕太?・・・裕太って身長170センチくらいだよ?ちょっと小さいかも。」

「もう、それでいいぜ。どうせ、車で迎えに来てもらうし。」

「あっ・・・だったら、全部の服を持ってきてもらえばいいじゃない。ユニフォームと制服。で、うちで着替えて、氷帝行けば?」

「・・・・頭さえてきたじゃねーか。」

俺は戻ってきた不二の頭をなでる。

「昨日は本当に心配した。・・・でも、もう平気そうだな。」

「・・・うん。・・・ありがとう。」


にっこりと微笑む姿が、本当にかわいらしい。
すぐにでも、抱きしめたい。


「あ、コーヒーがきれてるね?飲むかい?」

「あぁ・・・。」

「コホっ・・・ちょっと待っててね?」


不二が台所へ向かったとたん、音楽が鳴りはじめた。
風呂が沸いた合図のようだ。


「あっ・・・お風呂沸いたみたい。」

台所から顔をのぞかせる。


「お前の家、風呂沸くの早いな・・・。」

「そう?・・・どーする?飲まずに入る?」

「あぁ・・・時間もねーしな。」

「あっ・・・ゴホっ・・・何時くらいに来てもらうの?迎え。・・・電話してから入れば?」

「お前の家族は何時に帰ってくるんだよ?」

「う〜ん・・・たぶん、2時くらいかな。」

「・・・昼じゃねーじゃん。」

「そう?・・・ま、いいじゃない。・・・電話しなよ!電話そこね?」


不二の指差した先にある電話で、俺は制服やユニフォームやラケット・・・
とにかく部活へ行くためのものを持ってこいと、使用人に命じた。
車にはナビがついているので、不二の家はわかるだろう。
練習は、2時からなのだが・・・まだ不二が少し心配だった俺は、
1時半に迎えにくるようにと言った。
ここから氷帝までは、車でも時間がかかるが・・・たまには遅刻してもいいだろう。
あとで、樺地にでも練習メニューを伝えよう。

そうこうしているうちに、不二はまた2階へ上がっていった。
いったい何をしているのだろうか・・・?


用件が済んだので、電話を切り、不二を追う。

トントントン・・・

自分の階段を上がる音が耳にはいる。


不二は、自分の部屋から出てきたところだった。

「あれ?・・・電話済んだの?」

「あぁ・・・お前が2階に行ったから・・・。」

「うん。・・・電話聞くの失礼かなっと思ってね。・・・コホっ・・・それに、タオルとか用意しないといけなかったし。」


不二は手いっぱいにタオルを持っている。
ふかふかしていそうな白いタオルに、今にも飛び込みたくなる。
不二を見る。
やはり少し顔が赤いが・・・今日、1番最初に見たときより顔色がいい。
女みたいに細い首。
綺麗な髪・・・。
廊下の窓から光が射して・・・キラキラと輝いて見える。


「こっちだよ!・・・着いてきて。」


廊下の奥にバスルームがあった。
ここも洋風。結構、広い。
不二は、近くにある洗濯機の上の籠に、タオルを入れた。
籠の中には・・・服も入っているようだ。


「シャワーは、ここひねるのね?・・・お湯はこっち。水はこっちね?」

「あぁ・・・。」

「何かあったら、中にあるこの呼び出しボタン押して。下に音がいくようになってるんだ。」

「わかった。」

「よしっ。あと・・・ゴホゴホ・・・服、これでいい?裕太の。ちょっと大きめの探した。でも、寮に結構持って行ってるみたいで・・・。」

「あぁ、十分だ。ありがとよ。」

「どういたしまして。じゃぁ・・・ごゆっくり・・・。」




優しくて・・・美人で・・・・ナイーブな恋人。
テニスがうまくて・・・気高くて・・・めったに弱味なんかみせない。




部屋から出ていこうとするのを、俺は、後ろから抱きしめて阻止した。

「・・・?どうしたの?」

振り返る不二は、本当にきれいだった。
俺はやつのおでこに手をあてる。

「・・・さっきより・・・たぶん熱ねーな。」

「・・・・うん、平気だよ。母さんたち帰ってきても・・・心配かけなくて済むね。」


その笑顔を・・・ずっと見ていたい。
安心する。
一緒に・・・いたい。


「・・・じゃ、お前も一緒に入るぞ。」

「・・・クスっ・・・何を言って・・・。」

「脱げよ。」


少し抵抗する不二の首元に・・・俺はキスを落とす。













この話の続きは完全にunderにUPします。
ここまでは・・・全然、「表」の領域ですもんね!(笑)