籠の中の鳥たち
「・・・っつ、痛てっ・・・。」
「我慢。もう・・・無茶するから・・・。」
「恋人助けんのは当然だろ?」
「僕だって、男なの!・・・1人で、太刀打ちできたよ。」
「できてなかったくせに・・・。」
ムカついて、俺は不二がケガをしている右腕をぎゅっと掴んでやる。
「うっ・・・。」
「俺はもういい。次はお前だ。どこが痛い?」
「まだ、ダメ。」
「お前のほうが、ひどい怪我だろ?・・・右腕掴むぞ?」
「黙って。」
不二は綺麗だ。
もともと女顔なのに、華奢で細く、男にしては小柄だ。
格好によっては、女性と間違えられても・・・まぁ、納得と言った感じ。
だから、今日みたいなことになったのだろう。
今日は部活の帰りにうちに来いと・・・
不二を氷帝に招いた。
それは、土曜なのに午前中は部活があったからで・・・
終わるのを待ってもらい、一緒に帰ろうとしていたのだ。
氷帝に来いと言ったのが・・・そもそもの原因だったのかもしれない。
コートに来いと言ってあった。
しかし・・・約束の時間になってもやつは来ない。
イラついて・・・俺は、先に部室棟へ向かうことにした。
部室棟へ行くまでには、体育館を通るのだが・・・そこで微かに聞きなれた声を耳にした。
その声は本当に微かで・・・普通のやつなら気づかないだろう。
「不二の・・・声?」
嫌な予感がして、俺は体育館の裏の方へと近づいていった。
「うっ・・・・はぁ・・・・。」
近づくにつれて聞こえてくる、苦しそうなうめき声と、それに続くバシっという鈍い音。
「立てよ、ほらっ。」
数人のケラケラ笑う声。
氷帝の・・・男子生徒だ。
「不二!」
生徒が一斉に振り返る。
そんなの無視して、俺は一目散にヒザをついている不二に駆け寄る。
左腕を引っ張って、不二を立たせた。
「跡部・・・?」
腹を抱えながら、俺を見上げてきた。
不二の口元には、殴られて口の中が切れたのか、血が少しついている。
他にも、腕やヒザや足・・・そこら中にケガをしているのが、わかる。
頭に血が上る。
「これは、これは、跡部様。」
4人いる男子生徒のうち、リーダー的存在であろう1人が話しかけてきた。
「この女の彼氏は、跡部様ってわけね。」
ケラケラケラと残りの3人と一緒に笑う。
「女・・・?」
不二の服装をよく見る。
今日は学校がなかったのだろう。私服だ・・・。
ベージュのカジュアルなシャツに、短めのパンツ・・・・スニーカー・・・
近くにキャスケットが落ちている。
ところどころに泥や血がついている。
「だから、怒ったわけね、お嬢さん?」
きっと睨みつける不二。
「おー恐い。まだ、そんな元気があるわけ?」
ケラケラと・・・下品な笑い声がまた聞こえる。
「俺たちはね、跡部さん。このかわいい子と、ちょっとお話しようとしただけなんですよ。
テニスコートはどこかと訪ねてきたからね・・・・。
で、俺たちはテニス部員の誰かの彼女だと予測した。俺たちは身分が高めなテニス部員はみんな嫌いでね・・・」
そういえば、忍足が言っていた気がする。
氷帝テニス部はただでさえ、個性が強く・・・しかも、ドライな性格のやつが多い。
俺たちを嫌う者も少なからずいて、嫌がらせをしてくるやつもいる。
俺様はそんなの無視すればいいといったが・・・
忍足は、引かなかった。
俺は、その氷帝テニス部を率いる部長であり、しかも氷帝中等部の生徒会長だ。
女もキャーキャー言うやつが多い。
故に、俺を敵対する者も多いはずだと・・・・。
「テニス部連中の悪口をついね、すこーし言っちゃったんですよ。そうしたら、彼女が怒り出して・・・なぁ?
俺たちに歯向かってくるもんだから、ついこんなところで手を上げてしまったってわけですよ。」
ケタケタケタ
頼むから黙ってくれ・・・・。
俺の怒りは、頂点へ達しようとしていた・・・。
リーダー格のやつが俺に近づいてくる。
俺は、不二をいったん俺の後ろに座らせる。
「跡部。」
俺を止めようとしたのだが・・・一人では立っていられないようだ。
すぐに座り込んでしまった。
「おとなしくしてろよ?」
不二の頭をなで、俺様の携帯を渡した。
「跡部!」
不二の制止の声も聞かず、
リーダー格のやつに俺様も近づく。
やつは俺様のユニフォームのシャツの襟をつかんだ。
「そんな恐い顔すんなよ・・・いーじゃねーか。女の1人や2人・・・お前にはクズも同然だろ?」
限界だ。
頭の中で、理性の糸がプツンと切れたのが、わかった。
「ふざけんじゃねーよ!」
俺は、とりあえず不二を座らす時に、そっと掴んだ砂を、そいつに向かって投げた。
相手はバランスをくずす。
そして、股間を蹴って動けなくする。
他の連中が俺に向かってくる。
不二の方へも1人行きやがった。
それに気をとられて、俺の相手のパンチを避けることができなかった。
「くっ・・。」
「跡部っ!やめてよ、お願い。跡部は何も悪くないだろ!」
「うるせーな。女は黙ってろよ。」
「っつ・・。」
パンっという音が響く。
「不二!」
ズズっと・・・壁を背中が擦る音がする。
「女に構ってる暇あんのかよ!」
振り返ると相手が持つのは、その辺に置いてあったのであろう、金属バット。
しまった・・・ここは体育館裏だ・・・。
やばい!
そのバットは、俺に向かって振り下ろされようとしていた・・・・
「はい、ストップやんな?こんなもん、中学生のケンカに使ったらあかん。」
その金属バッドを止めたのは・・・忍足。
「はっ・・・バカ、遅せーよ。」
「困った部長やな、まったく。」
他のレギュラーもいる。
人数の上では、絶対有利となった俺たちは、暴力を振るうこともなく、
俺を相手にしてきた3人を捕らえる。
特に、日吉の武術が冴えた。
「不二くん・・・立てる?」
「・・・大丈夫・・・だよ。」
不二の方にも、珍しく起きているジローが行き、不二に声をかけている。
・・・樺地が不二の方へ行ったもう1人の仲間を捕まえていた。
「生徒指導室にでも連れて行かなあかんなぁ?」
「待てよ!どうしてお前らここに・・・」
「あぁ・・・携帯だよ。お前ら、気づかなかったのか?激ダサだな。」
「・・・携帯?」
「俺様の携帯は、GPSがついてんだよ。場所がわかるってわけ。」
「それにぃ〜、跡部は携帯を忍足にかけっぱなしのままにしていたわけぇ。
俺たちに状況まるわかり!くやC〜でしょ?」
「・・・俺たちだけじゃなくて、お前たちも・・・」
「あーん?俺様がいつ暴力を振るった?ケガの具合を見れば一目瞭然。お前たち、どこにケガしてんだよ?」
「・・・この女から仕掛けてきたんだぜ?」
「女って・・・誰のこと言ってんねん?」
「そこの茶髪の女だよ。」
「えっ?ククっ・・・あれはやな〜・・」
「忍足くん!・・・」
「・・・・。不二・・・?・・・あぁ・・・でも、女の子やで?男が女に暴力振るうなんて・・・男失格や。なぁ、岳人?」
「あぁ。」
「最悪ですよね?宍戸さん。」
「長太郎の意見に賛成だな。」
「ちっ・・・・。」
黙り込む4人。
決着がついたようだ。
「跡部、こいつらと先生たちへの説明については俺らに任せ。それより、不二や。
跡部も・・・ケガしてんな。保健室行き。これ、鍵や。今日は先生おらんで?土曜やし。」
「あぁ・・・悪いな。」
「いや・・・。ほな、みんな行くで。」
ジローが俺に不二をたくす。
ゾロゾロとあいつらが行ったので、土曜といえど目立つだろう。
俺たちはしばらく、体育館裏で待機する。
日陰で涼む。
さっきまでの騒ぎが嘘のように静かだ。
不二の髪が俺の隣でサラサラ揺れる。
長くなったので、ストップ!