籠の中の鳥たち vol.2
体育館裏。
忍足たちが行ってから15分くらい経っただろうか。
急に不二が俺の口元を触ってきた。
「・・・痛い?」
「あ?・・・平気だ。お前、自分の心配しろよ。」
「僕はたいしたことないよ・・・・。」
不二は案外、頑固だ。
そして、自分のことを優先しようとしない。
あくまで、他人のことを心配する。
優しすぎるんだ。
「わっ・・・ちょっと何っ?」
不二を俺の方に引き寄せて、無理やりキスをする。
不二の口元の傷をペロっと舐める。
「痛っ・・・。」
「ほーら、痛てぇんじゃねーか。」
「・・・・。」
「・・・そろそろ行くか。・・・立てるか?保健室行くぞ!
ったく・・・忍足め、助けに来るの遅れたのはコレのせいだな?」
鍵を空中へ投げて、またキャッチする。
「クスクス・・・っつ・・・ちょっと・・・肩貸してもらえるかい?」
「・・・立てねーのか?」
「ん・・・平気だけど・・・。」
「強がってんじゃねーよ。掴まれ。」
不二の左腕を、自分の左肩に回し、反対の腕で腰を支える。
「っつ・・・・。」
「どこが痛む?」
「クスっ・・・平気だって・・・。」
「顔歪ませてるじゃねーか。説得力ねーよ。」
落ちている不二のキャスケットを拾って、保健室へ向かう。
体育館正面にある本館を通って保健室まで行く。
幸い、生徒や教師には遭わなかった。
俺を知らない生徒はいないと思うし、不二は私服だ。
見かけたら、不審に思わないやつはいないだろう。
電気のついていない保健室。
ガチャっと忍足からもらった鍵で中に入る。
電気は念のため、消したままにしておく。
カーテンも閉めたまま。
バレないようにだ。
しかし、正午ということもあり日差しで部屋の中は十分に明るい。
「そこに座れよ。」
「跡部の方が先!」
「お前のほうが、ひどい怪我だろ?」
「跡部、消毒の仕方とかわかんないでしょ?僕は・・・クスっ・・・青学はやんちゃな子が多いからさ、
大石や僕で、よくケガの手当てしてるからわかるんだ。それに、僕の消毒し出したら、君、自分のケガ
を処置するの嫌がりそうだしね?」
「どうゆう意味だよ。」
むっとした。
それが顔に出たのだろう。不二が俺の顔を見て微笑む。
「だから、僕が先に君の傷を消毒する。僕のも自分でやってもいいんだけど・・・。」
「自分のケガを自分で消毒したりする気にもなんねーだろ。俺がやる。」
「そうなんだよね。だから、見て覚えてね?」
クスクスとおかしそうに笑う。
氷帝の保健室なんかに来るのは初めてだろう。
なのに、テキパキと引き出しを開けて、湿布の位置などを確かめている。
不思議そうに不二の行動をみつめる俺の視線に気づいたのか・・・
「あぁ・・・青学の保健室と似てるんだよ。それに・・・だいたい使い勝手がいいところに
置くんだから・・・ものが置いてある位置も似てるってわけ。」
なんて言いながら保健医が座るイスに腰掛ける。
濡れタオルで口元の傷を軽く拭いたあと、ピンセットで綿を消毒液の中に入れ、それを俺の口元に持ってくる。
「・・・っつ、痛てっ・・・。」
「我慢。もう・・・無茶するから・・・。」
「恋人助けんのは当然だろ?」
「僕だって、男なの!・・・1人で、太刀打ちできたよ。」
「できてなかったくせに・・・。」
ムカついて、俺は不二がケガをしている右腕をぎゅっと掴んでやる。
「うっ・・・。」
「俺はもういい。次はお前だ。どこが痛い?」
「まだ、ダメ。」
「お前のほうが、ひどい怪我だろ?・・・また右腕掴むぞ?」
「黙って。」
不二は、タオルを濡らして俺に渡す。
「ここ、冷やしてね?」
殴られたところを指しながら言った。
ひんやりと冷たい。
気持ちいい。
「よいしょっ・・・跡部・・他にどこが痛い?正直に言ってね?じゃないと僕への処置が遅れることになるから。」
こいつは頭の回転のいいやつだな・・・。感心して不二を見る。
当の不二は、はっとした表情を浮かべ、言葉を続けた。
「・・・・腕は?手とかひねったりしてない?」
テニスへの支障が出るのではないかと心配したのだろう。
「あぁ。そんなヘマするようなやつじゃないぜ、俺は。」
「・・・・よかった。・・・じゃ、どこが痛いの?」
「擦り傷だけだ。足と・・・腕。俺は3回くらい殴られただけだから・・・。」
「本当だ。・・・うん、ケガは軽いみたい。じゃぁ、消毒しとくね?」
手際良く、消毒をしてくれた。
包帯を持ってくる不二を、俺が止めた。
傷はたいしたことないので・・・そんな目立つようなのはゴメンだと。
これには、不二も承諾してくれた。
「・・・ほら、次はお前だ。まず・・・傷洗うぞ。」
保健室にある水道まで不二を連れて行く。
腕やヒザや足や・・・色々なところを怪我している。
しかし、程度は軽いようだ。もう血は止まっている。
「・・・っつ・・・はぁ・・・・。」
こんなときに・・・俺をそそるような声を出す。
「・・・んな、甘い声出すなよ。」
「クスクス・・・っつ・・・。」
「我慢しろ。」
次は・・・消毒。
さっきまで俺が座っていたイスに座らせる。
その時・・・俺は違和感に気づいた。
「お前・・・あいつらにどこやられた?」
「僕もたいしたことない・・・」
「俺も正直に言ったんだ。お前も言えよ。・・・腹蹴られたろ?じゃないと、座るときに腹なんか押さえねーよ。」
「・・・・バレちゃった?」
「・・・・。他にも打撲してんだろ?・・・とりあえず、その擦り傷と・・・右腕の傷。消毒するから。」
消毒液のついた綿を不二の傷口に軽くつけていく。
不二は、じっとその痛みに耐えている。
特に、右腕はひどく擦りむいていた。
「・・・ここは包帯巻いておいたほうがいいだろ?」
「ガーゼで十分。これは、自分でやるよ。」
腹が痛いのを微笑みで隠すように立ち上がり、引き出しからガーゼとテープを持ってくる。
手際よく、自分の傷口をガーゼで覆う。
「あ、君もガーゼにしておけばよかったね?今から処置しようか?」
「いや、いい。それより・・・足、あざだらけじゃねーか。湿布するか?」
「クスクス・・・大げさ。君、どこかにぶつけてできたくらいのアザに湿布するの?」
「しねーな。」
「でしょ?」
クスクスと笑う不二。腹を押さえている・・・。
「・・・。ベッドに来いよ。」
「えっ?」
「腹。ここより、ベッドに寝て診る方が痛くねーだろうし・・・・。素直に来いよな。」
「・・・・わかった。」
かなり痛かったのか・・・不二は何も言わずにベッドに横になる。
俺は、先生用のイスをガラガラと不二が寝たベッドの横に持ってきて、座る。
「ボタンはずせよ。」
不二にシャツのボタンをはずさせる。
起き上がらずに寝たまま、1つ1つゆっくりとはずす。
不二の細く白い体。
今にも抱きしめたくなる。
俺の手で壊したくなる。
やはり痛いのだろう・・・少し涙目の瞳。
今にもキスをしたくなる。
俺で痛みを消してやりたくなる。
この状況だからこそ、我慢できるが・・・
理性を失えば、簡単に不二を・・・・。
こんな考えをしている場合じゃない。
腹の下の部分が紫色になっている。
「お前・・・痛てぇだろ。・・・何回蹴られてんだよ!」
「殴られもした・・・。回数なんてわかんないよ。」
「ったく・・・肋骨折れてないか調べる。」
「できるのかい?」
「保健の授業でやった。」
「ふーん・・・。じゃ、消毒とかもわかるんじゃない?」
「いや・・・あぁ、骨折とか捻挫とか・・・そういう時の応急処置の方法は習ったけどな。」
「覚えてるの?」
「あたりまえだろ。」
「クスクス・・・さすが、跡部様だね?クスクス・・・痛っ。」
「笑うからだろ。・・・・順番に押してくから・・・。」
俺は手で右の肋骨を押していく。
不二は無表情のまま、じっとしている。
左へ移る。反応から見て問題ないようだ。
最後に・・・紫色の部分を本当に軽く触った。
「痛っ!・・・跡部、痛いって!やめて!」
「軽く・・・触っただけだぜ?湿布だな。肋骨は平気そうだけど・・・他は・・・?」
「・・・知らないよ。」
「俺も素人だ。痛いのが続くようなら、病院に行けよ。」
俺は不二の腹に湿布を貼る。
スースーとする独特の痛みがきたのか、顔をしかめている。
「起き上がるだろ?・・・ほら。」
不二の右の手首をつかむ。
「っつ・・・。」
「・・・不二?」
また、ひどく嫌な予感がした。
か弱いのに、我慢してるような不二くんが好きなんだって!(笑)
ここのHPでは、彼に苦しんでいただきます。(コラっ)
で、それに気づくのが跡部様ってね♪
・・・ありきたり〜!!!(笑)