意味と答え〜alive or dead〜 第2章
ふかふかしている・・・・
ここは・・・どこなんやろ・・・?
見渡す限りの白い・・・白い空間。
いい匂いがする・・・・
シャンプーの匂いなんかな?・・・
シトラスのかおりが・・・俺に安心感を与えている。
「あ、起きた?・・・気分はどう?」
「・・・・・。」
見慣れない部屋・・・・。
ベッドに寝かされているようだ。
いい匂いは今なお俺の鼻腔をかすめる。
その正体は・・・・
「ふ・・・じ・・・?・・・痛っ・・・。」
「起き上がらない方がいい。」
だんだんと目が覚めていく。
不二周助・・・不二が俺の横でニッコリと微笑んでいる。
でも、わからん・・・・。
どうして目の前に、青学の天才・不二周助がいるんや?
俺は、1年のときからコイツを知っていた。
青学と氷帝・・・都大会、関東大会で顔を合わせないことはない。
不二周助は、その中でも、技が華麗でとにかく隙がない。
青学の天才と謳われるに相応しい存在やった。
そんなコイツを別に意識しているわけちゃうけど・・・
俺も・・・いつのまにか氷帝の天才と呼ばれておった。
別に意識なんてしてへん。
でも・・・お互いテニスをする姿は目に入っていたと思う。
当然、名前も知っとる。
ただ・・・それだけ。
その程度の関係やった・・・・。
「覚えてる?公園で・・・・あそこ氷帝の近くだったんだね?君が倒れてたのを・・・」
濡れタオルが俺の額におかれる。
冷たい・・・気持ちがいい・・・
それを不二が手で軽く押さえている。
何だか・・・安心する。
「僕が見つけたんだ。」
「・・・そうか・・・。」
「・・・・何で・・・キスなんてしたの?男の僕に・・・・。」
「・・・・?」
「・・・・覚えてないの?」
「・・・・・そうみたいや。俺があんたにキスしたんか?」
「・・・・いや・・・覚えていないならいいよ・・・・。とにかく、君が僕の方に倒れてきたんだよ。救急車呼ぼうとしたら・・・。」
「そら・・・困るなぁ。」
「・・・・・。と思って、姉さんに車で拾ってもらったよ。君を担いでなんていたら目立つし・・・」
「あんたじゃ、俺担げへんとちゃう?」
「クスクス・・・そうかも。あ、姉さんは口堅いから大丈夫。それに・・・今日も出かけていっちゃった・・・会社だって。」
「!?ちょ〜待て!今日は・・・。」
「月曜日。学校は休んだ。君も・・・そんなんじゃ学校行けないだろ?」
「・・・・・。」
「母さんいないし・・・姉さん許してくれたから。あ、君のお家には姉さんが連絡した。うちに泊まるって。
で、うちから学校行きますよ〜って。」
「そうか・・・・。」
不二は、俺がこんな状態だということを家族に知らせたくないと思っていることをわかってくれているのだろう。
そして不二のお姉さんは・・・相当、弟を理解してくれているのだろう。
普通・・・怪我している俺を家に連れて帰ろうなんてしない。
即座に病院にでも連れて行き、俺の家族に連絡する・・・・
普通の人ならこのような対応をするはずだ。
こんなことをボーっと考えていると・・・
頬に手の感触を感じた。
温かい・・・人の体温。
俺はそんなのとっくに忘れた・・・。
「痛い・・・でしょ?どこか・・・すごく痛いところとかある?」
「いや・・・わからんわ。・・・どこもかしこも痛い。」
「どうして・・・そんな怪我したの?・・・ケンカ・・・だよね?昨日、休日なのに君、制服だし・・・。」
「・・・・・・・・。」
「言いたくないならいいけど・・・・人に暴力を振るうのは、いけないことだよ。」
「・・・・・。そんなん・・・俺の勝手やろ?」
「・・・・えっ?」
「・・・・別にえ〜やろ?やられたから、やりかえした。それが続いてケンカになった。それだけの話や。」
「・・・・・・・・。」
不二は黙って、救急箱から消毒液を取り出している。
何だか・・・とても哀しそうな瞳。
「布団どかすね?・・・消毒したり・・・湿布変えるから、シャツのボタンはずして?
できれば、起き上がってほしいけど・・・。」
「あぁ・・・平気や。」
ゆっくりとふわふわした布団をはいで起き上がる。
「うっ・・・。」
全身に鈍い痛みが広がっていく。
素早く、不二が横から俺の体を支えて起き上がるのを助けてくれている。
シャツを脱ぐと・・青アザや擦り傷などが見え・・・俺の体は随分、傷ついているようだった。
自分のことなのに・・・そんな傷を客観的に見ている自分がいる。
それもこれも・・・全体的に広がる痛みに感覚が麻痺しているせいなのだろうか・・・
不二が俺のわき腹を押す。
「痛っ・・・。」
「ここが一番ヒドイよ。真っ青だもん。蹴られました〜って感じ・・・」
他人からしてみれば、目を瞑りたくなるような怪我だと思うのだが・・・・
不二は淡々と治療し、その部分が新しい湿布によりスーっとしていく。
痛いような・・・気持ちがいいような・・・不思議な感覚。
ここ以外の部分も、着々と不二が処置していってくれている。
こんなに近くで・・・こいつを、まじまじ見るんは・・・初めてやんなぁ?
ラフなチェックのシャツと裾が短めのズボン。
服を着ていても・・・こいつが華奢であることがわかる。
白い肌・・・・その肌に触れたら・・・透き通ってしまいそうなほど・・・。
そして・・・不二の綺麗な顔にも驚いた。
こいつ・・・・こんなに綺麗な顔してんねやなぁ・・・・。
女の子みたいや・・・。
「腕とか足とかの怪我はたいしたことなさそうだね。わき腹と・・・顔が痛そう。」
再び、頬を触られ、俺はハッと現実に戻る。
不二の細く温かい手が俺の頬を包み込む。
「顔は・・・湿布しない方がいいよね?はい、このタオルで冷やしてね?」
「あぁ・・・お〜きに。」
「もう少し動けるようになるまで休んでいきなよ?お腹すかない?」
「・・・少し・・・。」
「クスクス・・・・おかゆかなんか作ってきてあげるよ。それまで寝てたら?」
不二はスクっと立ち上がり、すぐに部屋を出て行った。
俺は・・・・また心地いい布団に寝転がる。
不二が離れたにもかかわらず、シトラスの香りがする。
この部屋に染み付いているのだろうか?
1人になったら・・・何だか気持ちが落ちてしまいそうな気ぃがしていたのだが・・・
この香りのおかげで、それが回避されている。
外は今日も炎天下のようだ。
もうすぐ夏休みである7月中旬にもかかわらず、気温は30度を超えていた。
クーラーのおかげでこの部屋は快適な気温となっている。
窓のカーテンの隙間からの太陽の光。
それがサボテンを照らしている。
ガチャ
不二がお盆を持って部屋に入ってきた。
食欲を誘ういい匂い・・・・。
ミニテーブルをベッドの近くまで引き寄せる音がする。
「おいしいかどうか、わからないけど・・・・。」
「食べさせてや・・・。」
「えっ?」
「体動かすと痛い・・・。」
「あぁ・・・いいよ。」
本当は、飯ぐらい自分で食える。
だけど・・・今は人に甘えたい気分やった。
近くにいる人間なら誰でも・・・誰でもよかった・・・。
ふ〜っ・・・ふ〜っ・・・・・
息遣いも綺麗なんやな・・・・
何気ないものなのに・・・
それさえも、俺に心地よさを与えてくれていた。
「はい、あ〜ん。」
「あ〜ん。・・・・・・・・・辛っ!これ、お粥の味ちゃうで!?何入れたん?」」
「クスクス・・・僕、辛いのが好きなんだ。・・・さっき、君があんなこと言ったから、そのお返し。
人にね・・・暴力なんて振るったらダメだ。どんな理由であろうと。暴力を正当化する理由なんてないよ。」
「・・・・・あんた、腹黒いなぁ・・・。」
「クスクスクス・・・君に言われたくないよ。」
「・・・・。・・・・ケンカしたわけとちゃうで・・・・。」
「・・・・えっ?」
どうしたのだろう・・・・
不二が勝手にケンカだと思い込んでるのなら、そのままにしとけ!っと思っていたのに・・・・
部外者に本当のことなんて言わんでもええ・・・そう思ぉてたのに・・・・
「女の子がな・・・からまれてたんや。・・・高校生かなんかに。だから・・・助けてやったんや。」
「・・・・・・。」
「で、俺が変わりに返り討ちにあったってわけ。関西弁で、きっついこと言ったからなぁ。」
「逃げればよかったのに・・・・。」
「逃げたら、そいつら女の子追っかけるやろ?女の子やで?足は遅い。俺が時間稼ぎせんとな?」
「・・・・・・・。」
「こんなん自分で白状したら・・・俺すごいやっちゃろ?って自慢してるみたいで嫌やってん。
でも・・・何か、あんたには言う気になんたわ。・・・何でやろ?わからんわ〜・・・。」
「・・・・・ごめん。」
「・・・・・んっ?」
「早とちりして・・・ごめん。」
「いや・・・俺もあんたの意見には賛成やで?だから・・・・やられっぱなしで、暴力振るわへんかった。」
「・・・・そっか。・・・・僕も君と同じ立場だったら、同じことしてたよ。」
「あんただったら・・・骨折れてたんとちゃう?細っそいからなぁ。」
「失礼だな。僕だって、女の子ぐらい守れるよ!」
「はいはい。」
「・・・・・何だい?・・・・君・・・もっとこのお粥食べたいの?」
「・・・・・・すみませんでした。」
「クスクスクス・・・。」
そう・・・・これが、きっかけやった。
このとき・・・周と仲良くならなければ・・・・
周は助かったのに・・・・。
別に忍足くんは不良設定じゃないっす。
普通の生活している中学生って設定。
忍足くんはいい人です。