意味と答え〜alive or dead〜 第4章












その後も、関東の強いテニス中学校を狙った傷害事件は後をたたなかった。

氷帝・山吹・緑山・不動峰・・・・・・・

事件発生の間隔は週に1回程度と奇妙に減ったものの・・・

まだまだ注意が必要だった。

そう・・・青学では幸い、まだ誰も襲われていなかったのだ。

どんどん発覚していった事実。

・・・犯人は首謀者以外は、その時々で変化するらしい。

それが何故なのか理由はわからない。しかも・・・首謀者は自ら手を下さない。

あくまで指示を出して・・・下っ端の者に各校の生徒を襲わせているらしい。

その下っ端たちも、うまく事件を起こすものだから・・・・首謀者の顔も下っ端たちの顔も割れないのだ。

そう・・・犯人は、犯行時・・・全員、こんなに暑い夏なのに、マスクをしているらしい。







景吾の言っていたように、続く事件に、各学校は、下校時にバス停や駅までの通学路を指定し、

その通学路に教師が立って、生徒を守るという策が警察側と相談され実行されていた。

それでも・・・部活の終わる時間はバラバラ。

通学路も指定されてはいるものの、寄り道をしたりする生徒もいるわけで・・・確実に安全を保証する手段ではなかった。
































そんなある日、テニス部の練習を終えた僕を君が待っていたんだ・・・。






























「久しぶりやな。」

「・・・・忍足くん?どうしたの?」

「いや・・・礼をせな思うてな。今から、俺に付き合わん?」

「えっ?ちょ、ちょっと・・・・。」



一人で帰ろうとしていた僕の返事を聞かぬまま、忍足くんは強引に僕の手を引いて歩き出した。
僕より少し大きな手。
遠い昔・・・父親と手をつないでイチョウ並木を歩いたときに感じた感触を思い出した。



いつもは英二たちと帰るのだが・・・今日は、たまたま1人だった。
事件は続いていたけれど・・・そんなの僕の身にふりかかるはずないと、
やけに客観的にものを見ていたため、スタスタ帰ろうとしていたのに・・・。
そう・・・先生方も部活終了時刻まで、通学路に立っているわけにはいかない。
部活後の遅い時間は・・・1人になることの多い、危険な時間帯だった。



忍足くんは、ぐいぐい僕を引っ張っていく。
一体どこへ連れて行くつもりなのだろう・・・?















「1人で帰る気やったんか?」

「えっ?・・・あ・・・うん。今日はたまたま。」

「危ないやんか・・・・。」

「そうだね。」

「『そうだね。』やないで!俺みたいなったら大変や!ちゃんと友達と帰り!」

「あ、やぱっり・・・君も被害者だったんだね?・・・景吾にちゃんと言った?」

「やっぱり、あんたが跡部に言ったんか・・・・。」

「ん?」

「怪我した翌々日か?・・・跡部が練習せんでええ!なんて言ってな。
即、保健室連れていかれたわ〜。・・・黙ってよ、思ぉてたのに・・・。」

「クスクスクス・・・こういうことは黙ってたらダメだよ!女の子も氷帝の子だったの?」

「あぁ。・・・ま、あんたが跡部に言わんでも、その子が先生方に被害報告してたみたいやねんけどな。」

「そっか・・・。」

「跡部とは・・・?」

「あぁ、幼馴染だよ。事件のこと聞いて・・・ひっかかったから電話したの。」

「・・・・そうか・・・。」

「ところで・・・どこに行くの?」

「あぁ・・・アンタの家の近くやで?」

「?」
















僕の家に程近い、繁華街。
たくさんの店が立ち並ぶ中、細い路地へと入り込む。
こんな道・・・僕はいままで通ったことがなかった。





そこには、韓国語で書かれた看板。
どうやら、韓国料理のお店らしい。
少し・・・高級そう・・・。

ここのオーナーと忍足くんは仲良さげに話をしている。
どうやら、知り合いらしい。
こちらへどうぞ
っと・・・片言の日本語でテーブルに案内される。

次から次に出てくる料理。
忍足くんは、嬉しそうにニコニコしていた。




「た〜んと食べ!」

「・・・・・・。」

「何や?」

「お金・・・大丈夫なの?」

「ここ、俺の知り合いの店やねん。まけてくれるし・・・払うのは親父。」

「お父さん!?」

「あぁ。助けてもらった〜!ゆ〜たら、おごったれ〜!!って。」

「クスクスクスクス・・・。随分、おもいっきりのいい家族だね?」

「そ〜か?・・・・ま、食べや。あ!自宅には連絡入れておいたから。夕飯は外で食べます〜って!」

「!?・・・僕の家の電話番号知ってるの?」

「テニスの協会名簿見たら、一目瞭然やろ?」

「あぁ・・・なるほどね。」








そこの料理は、僕好みで辛い味付けの料理だった。
忍足君は、顔を真っ赤にしながら辛い料理を一緒に食べている。
その様子がとても可愛らしい。

とてもイイ人・・・・

そんな印象を改めて受けた。
僕のために・・・ここに連れてきてくれたんだ・・・・。









「せっかくだから、色々話そうよ!」

「そ〜やな・・・何話す?」

「う〜ん・・・・テニスかな?」

「俺ら、共通の得意技あるやんな〜?」

「羆落とし?あれ、僕の技なんですけど!!」

「あんたが、真似したんやろ?」

「君でしょ?」

「ははははっ、ま、どっちでもえ〜やん!あれ打てるやつ・・・そうそういないで?」

「クスクス・・・やっぱ、どこかおもいっきりがいいよね、忍足君。」

「あんな〜・・・その『忍足君』っての、どうにかならん?キショイわ〜!」

「きしょい・・・?」

「あぁ・・・気持ち悪い!ゾクゾクするって感じ。」

「へぇ〜・・・・。」

「・・・・・・・・・侑士で、えぇから。」

「えっ?」

「呼んでみ?」

「・・・・・・・・侑・・・士・・・・。」

「よくできました!」


くしゃくしゃと、僕の頭をなでる。
大きな手。
少しドキっとする。
・・・・・あれ?この感じ・・・どういう時にするんだっけ?


「僕も・・・名前でいいよ!周でいいや。」

「周?」

「うん!あんまり呼ぶ人いないけど。たいてい、不二!か・・・家では周助だし・・・・。
跡部や佐伯が、本当にたま〜に呼ぶくらい。」

「うん、周で!なんや、俺、貴重な存在やんな?」

「クスクスクスクス・・・そうだね。」

「あ、携帯持っとる?番号交換しよ!」

「あ・・・いいよ!」

































なんだか・・・やけにドキドキする。

この気持ち・・・何なんだろう?わからない・・・。

忍足くん・・・・じゃない・・・侑士の笑顔・・・・

なんだかほっとするし、すごくいい笑顔だと思った。

そのあとも・・・色々な話をして・・・・・

1つ1つは他愛もないことなのに・・・

何だか心に残る会話。

お店を出るころには、時計の針は9時を回っていた。









































「遅うなったなぁ〜・・・すまん。」

「ううん。楽しかったし、奢ってもらっちゃって・・・ありがとう!ごちそうさま!!」

「・・・・あんたの笑顔・・・いいなぁ・・・。」

「えっ?」

「いや、なんでもないわ。・・・・家まで送るわ〜。」

「平気だよ!うち近いし。・・・侑士、早く帰りな!ここから家まで遠いでしょ?」

「あぁ・・・・せやけどな・・・・」





キャー





突然、聞こえた悲鳴に僕らは顔を見合わせる。
女の人の声。
この近くだ・・・・。
この近く・・・・・公園?
僕の足が勝手に動き出す。


「おい!周、待てや!」


僕の家の周りには、青学の生徒が多い。
そして・・・その公園のあたりには、学習塾がある。
学校の勉強がわからない青学の生徒がたくさん通っているのを、僕は知っていた。
9時ごろ・・・・塾が終わる時間帯・・・・。


強豪テニス中学を襲う事件


・・・・嫌な予感がする。





公園に駆けつけると・・・・
予想通り、女の子が入り口街灯のあたりに倒れている。
青学の制服だ・・・・。
僕は、そこへ一目散に駆け寄る。



「大丈夫かい?」

「・・・・・・・・・・。」

「周!」

「侑士・・・・。」


侑士の後ろに複数の人影・・・・


「侑士!後ろ!!」


その人影は、僕の言葉に散り散りに逃げていく。


「侑士!この子、頼んだよ!」

「おい、待てや!周!周!!」


















侑士の叫ぶ声は、はるか遠くから聞こえていた。
僕は、複数の犯人が逃げたと同時に走り出していたから・・・・
この辺の地理は、僕の方が詳しい。
女の子を侑士に預けて、僕が追跡するという手段はあながち間違いではなかった。







散り散りに逃げていく犯人たち。
僕は、こがらな1人に的を絞って、追いかけていく。
持久走なら部活でなれている・・・・少しそのことに感謝した。







どんどんと間隔が狭くなる。
僕には、ある思惑があった。そう・・・・・







「行き止まり・・・・だよ?」





息も切れ切れ、僕は犯人を狭い駐車スペースへ導いたのだ。
そう・・・ここなら住宅街。
大声を出せば、周囲の人が不審に思うし、行き止まりなら犯人を逃さない。




犯人は・・・僕より少し身長が低いくらいだろうか?
覆面をかぶっている。
そいつに少しずつ近づいていく・・・・



「暴れたりしないことだね。・・・・何かしたら、僕は大声を出すから。」



覆面に手をかけ、いっきにはがす!
犯人の顔があらわになった。
しかし・・・・

ドスっ

腹に強烈なパンチをくらい、僕はよろめいてしまった。
さらにもう一撃、頭も殴られる。
その隙に、身軽な犯人はヒョイっと僕からすり抜ける。


「ま・・・待て!!」


ズキンと、殴られたところが痛む。
・・・・指に金具がはめられていたようだ。
頭から流れる、生暖かいもの・・・・・たぶん自分の血だ。

マズイ・・・・・

だんだんと意識が遠のく・・・・







































最初は、こんな話になる予定じゃなかったんですけど・・・(笑)
私の場合、話のプロットを立てても、すぐに書いてる途中で・・・
変更されちゃうんだよな・・・・。
トホホ。