Beautiful
『綺麗なものには棘がある』
こんな言葉を聞いたことないか?
俺の幼馴染兼、恋人の不二周助は・・・まさしくこの言葉にピッタリな人物だと思う。
「周、何怒ってんだよ。」
「・・・・別に怒ってなんてないけど?」
にっこりと笑いながらスタスタ前を歩いていく不二
笑顔の裏にこもる悪意が丸見えだ。
幼いころから・・・こいつが怒ったところを見た回数は・・・手の指で数えられる程度だろう。
そのくらい腹を立てることの少ない周が、今日はやけに怒っている。
あいつも頑固だから・・・俺が相当折れないと機嫌を直さないのは確か。
ま・・・思い当たる節がないわけでもないが・・・・・
周とデートの約束をしていた昨日、日曜日。
俺は急に、氷帝の女学生に呼び出され・・・・
指定された公園に行った。
その公園は、周と待ち合わせをしていた喫茶店に程近く・・・
俺は、用が済んだら、向かえばいいと思っていたんだ。
どうせ・・・用件は検討がついていたから・・・。
「跡部くん・・・急に呼び出したりして、ごめんなさい。」
「あぁ・・・・で、用件は?」
「・・・・・私・・・・跡部くんのこと・・・ずっと・・・・。」
ほ〜ら、やっぱり
「ずっと好きだったの。」
この手の告白には・・・とうの昔から慣れていた。
俺がモテることは、周もよく知ってる。
周だってモテるしな。
だから、あいつも慣れてると思ってた。
俺は・・・いつもこうやって断る。
相手の気持ちは嬉しいし、尊重してやりて〜が・・・
俺には・・・大切な人がいる。
だから・・・1番、傷つけない言葉をハッキリ言ってやるんだ。
「悪りぃ〜な・・・・他に愛してるやつがいんだよ。」
「・・・氷帝の子?」
「・・・さ〜な?・・・でも・・・すげぇ、大切なやつだ。」
こう言えば、ほとんどのやつが身を退く。
これもいつものこと・・・
なのに・・・・
このときは違った・・・・
急に、俺は告白してきたやつに唇を塞がれたんだ・・・・
このパターンは初めてで・・・戸惑ったため対処が遅れた。
キスの時間が長かった・・・
そのせいなのか、このキスを・・・・
周が見てやがったんだ・・・・。
俺の推測でしかないが・・・
あいつは、待ち合わせの場所に向かう途中、この公園で俺を見つけ
声をかけようとしていたんだろう。
周がいたことに気づいたのは・・・
俺がその突然のキスから逃れた後、見たのは・・・周が走って去っていく後ろ姿。
その日、喫茶店に行っても周は帰ってしまったのか、そこには来ず・・・
メールも電話も無視。
だから・・・月曜日の今日、部活をサボって・・・あいつにも無理やりサボらせて・・・
今、俺様が乗ってきた車を避けた周を追って、青学から周の家へ帰る道を歩いているというわけだ。
「待てよ。」
俺の言葉を無視して・・・周は振り向きもしないで前へ前へ進む。
車通りの激しい繁華街。
道路脇には、街路樹が植えられていて夕日を浴びながら、葉が光っている。
その風景に溶け込む周は・・・とても綺麗だった。
「待てって。」
「うるさいな〜・・・追ってこないでよ。家帰れば?車呼びなよ。」
周が走り出す。
綺麗な栗色の髪の毛がサラサラ揺れる。
夏服である白いYシャツが、不二の細さを浮かばせる。
「・・・・ったく。」
後を追う。
こんなに人に振り回されたことなんてない。
周にだって・・・
いつもなら、こんな展開になったら周が譲歩するか、俺がキレるかのどちらかだ。
だけど・・・・周が怒っているときは別だ。
怒っているときは・・・
あいつが悲しんでいるときでもあるから・・・・
俺の手が、周の腕を捕らえる。
「離して!」
解かれる手
それでも俺は諦めない。
「止まれよ!」
「嫌だ。」
「周!」
「嫌だってば!」
周がまた走り出す。
手を再び解かれた勢いで、後を追うタイミングが少し遅れた。
すぐそこは角だ。
大通りから、そこの角へスピードの速い車が曲がろうとしているのが目に入る。
物凄い音が近づいてくる・・・
あいつは・・・前を向いてねぇ・・・。
「周!!」
寸前のところで、俺が周の腕を掴み、歩道へ引き寄せる。
おもいっきり引っ張ったため、よろける周を俺が抱えるような形で2人ともしりもちをついた。
その直後、さっきの車が、すごい勢いで俺たちの前の道路を通過していった。
「バカ!何やってんだ、お前!」
「・・・・・・・。」
「もう少しで、轢かれるところだったぞ?・・・聞いてんのかよ!」
俺の怒鳴り声に不二がピクリと反応する。
「・・・・・・ごめん・・・。」
「ったく・・・・・・・・立てるか?ここじゃ、人が多い・・・公園行くぞ?」
「・・・・・・・・。」
急におとなしくなった周は、うつむいて、俺に肩を抱かれながら、すぐ近くの公園へと歩いた。
静かな公園。
夕日をシルエットに遊具がもう遊んでくれる相手を失くし、そこに佇んでいる。
俺たちは、ベンチに腰をかける。
「どこか痛いか?」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・周?」
「・・・・・痛く・・・ない。」
泣き出してしまうのではないかと思われるほど、弱い声。
俺は、そんな周を腰を掴んでコチラに引き寄せた。
風のささやきだけが聞こえる
「・・・・何怒ってんだよ。」
「・・・・・・・・。」
「・・・・おい?」
「・・・・・・・怒ってなんか・・・ないんだ。」
「・・・・ん?」
「・・・・昨日の女の子とのキス・・・相手が突然してきたんでしょ?」
「・・・・あぁ・・・。」
「わかってたんだ・・・だから、景吾は悪くないって・・・。だけど・・・何か・・・胸が苦しくて・・・。」
「・・・・・・・。」
「すっごく苦しくて・・・たぶん・・・あの子に嫉妬してたんだね。・・・嫌な心。
醜い心・・・。景吾に見せたくなかった。」
「・・・・・・・。」
「それに、景吾に会ったら・・・泣き出しちゃいそうな気がして・・・。女々しいだろ?
男なのに・・・。だから、気持ちの整理がつくまでは、避けようと思って・・・君にきつく当たって・・・
でも、それがそもそもの嫉妬からの行為なような気がして・・・自分が嫌で・・・・。」
「・・・・・バーカ。・・・・って元はといえば俺が悪いんだな・・・悪かった。」
「違うよ・・・僕、知ってるもん!景吾がモテるの。・・・だから・・・」
「・・・・・俺は嬉しいぜ?」
「・・・・・えっ?」
「そうやって、お前が俺のこと想ってくれるの。・・・嫉妬してくれた方が嬉しい。
だから、自己嫌悪なんかに陥るなよ。」
「・・・・・・・・。」
上目遣いの綺麗な瞳が俺をじっと見ている。
その瞳の奥には、うっすらと浮かぶ涙
その姿がかわいくて・・・愛しくて・・・・
うっすらとピンク色をした唇を・・・
気がついたら俺の唇が奪っていた。
1回目は軽く
2回目は角度を変えて
3回目は、舌をつかって
4回目は、甘い吐息を伴って
5回目以降は、本能に任せて・・・・
次第に熱くなる体温を分け合いながら
俺たちはキスを繰り返した。
「こんなに長くキスしたの・・・初めてじゃない?」
一体、何回したであろう口づけの後、周がこんなことを言う。
俺は周と自分の胸の中におさめながら、答える。
「そーか?」
「そーだよ。・・・溶けるかと思った。」
そんな可愛らしい表現に思わず、吹き出す。
笑わないでよ!っと、またまた可愛らしい声が俺の中でする。
辺りはすっかり日も暮れて
昼間とは違い、気温も少し下がり、過ごしやすい感じになった。
でも、まだコイツと離れたくなくて・・・
抱きしめる腕に力がこもる。
「・・・・けーごぉ・・・。」
甘えるような声がする
こういう風に俺を呼ぶときは、機嫌がいい証拠
どうやら・・・気持ちが安定したらしい。
「アーン?」
「・・・寒い・・・。」
「はぁ!?・・・夏だぜ?寒いってことはねーだろーが・・・」
俺が言葉を言い終わらないうちに、周は噛み付くようなキスをしてきた。
周の両手がそっと俺の頬を包む。
下手くそなキス
でも・・・・嫌いじゃない。
そんな中、唇に痛みが走った
「痛って・・・。」
どうやら・・・周が、唇を噛んだようだ。
少し血の味がする。
「お前、痛てーだろ!」
「クスクス・・・僕の心の痛みより、痛くないと思うよ?」
「あっ?」
「よく考えたら、景吾も悪いんだからね!・・・反省してよ?」
本当に・・・機嫌が直るとすぐに本性を現しやがる・・・
「お前は・・・ちょっと拗ねてるくらいが、ちょうどいいな。」
「・・・・それ、どーゆー意味なわけ?」
「別に。」
綺麗なものには棘がある
だけど・・・そんな棘も、あいつの一部
だから、俺も妥協してしまう。
魅惑の罠
甘い・・・甘い・・・
こんな感じの作品は・・・初・・・かな?
色々な跡不二が書いてみたくて・・・
う〜ん・・・やっぱ幼馴染設定は照れる・・・(笑)