光射す華・闇照らす朝 17
「暑っち〜な・・・不二、荷物ココに置くぞ。」
「うん・・・ありがとう。」
今は、土曜日の午前7時半
昨日、気分が悪くなったり、体調不良がなかった僕は、予定通り通院へと切り替わり、
退院する事ができた。
跡部は、自家用車を手配していたらしく・・・僕はまっすぐに跡部の家に向かうこととなった。
そしてこれから・・・青学へ向かう。
「お前、バカか?」
「明日が、最終練習なんだよ?・・・ただでさえ、練習に出れてないのに・・・・」
「不二くん、気持ちはわかるけど・・・メンタル面と同様、体もまだ完全に治りきってはいないよ?」
「わかってます。」
こんな会話が繰り広げられたのは昨日のことだ。
忍足先生が、再度、僕の診察に来たときに・・・明日の練習に出たい!と言ってしまったのだ。
「わかってね〜よ。・・・休めよ。」
「不二くん・・・君は、3日間も何も食べずに、しかも寝ていなかった。それに風邪もひいていた・・・・
まだまだ、動くのは辛いと思うよ?・・・あさっての試合だって・・・できれば出て欲しくない状態だ。」
「・・・・・だからこそ・・・練習したいんです。自分の体が・・・どれくらい動くのか知っておきたい。」
「・・・・・・。」
「ヤバイ!と思う前に、練習やめます!気分が悪くなったら見学してます。だから・・・・」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・ふん。・・・先生・・・コイツが1度決めたことをひっくり返すのは、不可能に近いぜ・・・。」
「・・・跡部?」
「俺も付き添います。・・・コイツの容態が悪くなったら、すぐココに連れてくるので・・・先生もサポートしてくれますか?」
「・・・・・まったく、不二くんは案外、強情なんだね?」
「・・・・・・。」
「・・・本当に、無理をするんじゃないよ?それと、きちんと薬を飲むこと。いいね?」
「ありがとうございます。」
その後・・・跡部が英二と連絡をとってくれたのだ。
練習は、9時から13時までの午前練習。
だから、僕たちは朝早くに退院し、跡部家で支度をし、練習へと向かい、再び跡部家に戻ってくる。
こんな予定を立てたのだった。
着替えを済ませ、朝食をとる。
久しぶりに病院食でないものを食べる。
・・・少しの恐さが僕を襲う・・・・
だけど、跡部がそれに気づいて、僕の背中をポンポンとたたいてくれたおかげで
何事もなく、おいしい食事をとることができた。
車の中から青学へ向かう風景は、まるで変わらない。
変わったのは・・・犯された自分の体と・・・
それによって、変わることができた強い意志。
ふと隣の跡部を見る。
相変わらず整った綺麗な顔が、前方を見据えている。
「今日・・・切原は青学には来ね〜から、安心しな。」
「・・・・えっ?」
前方を向いたまま、突然、彼は言葉を発す。
「どうしたの?」
「・・・・今日・・・もし切原と会ったら・・・お前、取り乱さない自信あんのかよ?」
「・・・・・・・・・。」
「言っておくけどな〜・・・忍足医師の言う通り、お前はまだ完治してね〜。無理したら、キレるからな!」
跡部は・・・僕以上に僕のことを心配してくれている。
確かに・・・僕は少し甘いのかもしれない。
切原に立ち向かうためとはいえ・・・自分1人では立ち向かえない。
きっと今、切原に会ったら・・・・
僕はフラッシュバックに襲われるだろう。
それを跡部は、とても心配しているんだ・・・。
だけどね・・・・跡部・・・
だけど・・・・
「クスクスクス・・・。」
「・・・・何、笑ってんだよ。」
「心配してくれて、ありがとう。だけどね・・・君がいてくれたら・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「君が、隣にいてくれたら、きっと僕は大丈夫だよ?・・・いつまでも頼るつもりはないけど・・・・
明日までは・・・少なくとも乗り越えるまでは・・・・君が必要なんだ。」
跡部のキスが、僕の唇を奪う。
とっても・・・あたたかいキス・・・・
ほら、これだけで、僕にとって大きな大きな力となる。
「不二!」
英二が僕を呼ぶ。
僕が青学に着いたのは、9時少し過ぎ・・・・
コートへ行くと、すでに大石がみんなを集めて、今日の練習メニューを発表しているところだった。
「ごめん!」
すでにジャージに着替えていた僕は、ラケットバックを部室に置いて、
みんなのもとへと向かう。
みんなの視線が僕に集まる。
「・・・・すみません、練習休んで・・・。」
「不二、体調はもういいのか?」
「うん・・・大石、心配かけてゴメン。・・・いや、みんなだね・・・心配かけてスミマセンでした。」
「そんな・・・頭なんて下げなくていいにゃ!!」
「そうっすよ!不二先輩!!な、越前?」
「桃先輩・・・ッスね。・・・だけど・・・不二先輩と一緒に来た・・・あの人は何なの?」
フェンス越し・・・コートの外でこちらを見守る跡部へと視線が移る。
氷帝学園の制服を着ている彼は・・・嫌がおうにも目立つ。
どうしよう・・・・。
彼がこの場にいる理由・・・
それは・・・僕のためだ・・・・。
説明しないと・・・・
「越前・・・彼はね・・・。」
「特別コーチだよ!」
・・・・えっ?
大石の口から出た言葉に、大石・英二・跡部以外の全員が驚きの声をあげた。
一体・・・どうなって・・・・?
「不二が、頼んでくれたにゃ。・・・・練習、休んでたお詫びにって。」
「彼のインサイト・・・弱点を見抜く力は全国クラスだ。明日の立海戦に向けて、いいアドバイスをしてくれると思う。」
「あとべ〜!こっち来なよ!!」
気高いオーラを存分に放ちながら・・・
1歩1歩、僕たちの方へ近づいてくる。
さっきまで、あんなに近くにいたのに・・・・
まるで別人。
近寄りがたいほどに・・・氷帝の跡部景吾と成している。
「俺たち氷帝に勝ったんだ・・・しかも、俺様が特別にコーチしてやるんだぜ?
・・・立海に負けたら承知しね〜からな!覚悟しろよ。・・・な〜?越前?」
「・・・・・・・あんたと、不二先輩・・・そんなに仲いいわけ?」
「まぁ〜な。」
「・・・・それじゃ、レギュラー陣コートに入って。まずは、フォアとバックのストローク。
Aコート、英二・乾・海堂・不二。Bコート、桃城・越前・タカさん・俺。C・Dコートに2.3年。
1年生は、各自広がって球拾い!2.3年生、サポート頼んだ人、球出しお願いします。
それと、跡部くんはA・Bコートの中間で、アドバイスしてくれるかな?」
「あぁ。」
「それと、不二は、体操と軽くランニングしてから練習に加わって。」
「うん。」
「よし、じゃぁ・・・始めよう!」
体操とランニングをしようと外に出る僕を、跡部が見てニヤリと微笑む。
な〜るほど・・・
英二に連絡したとき・・・特別コーチをやる!と打ち合わせしてあったというわけだ。
僕と跡部のことは・・・青学3年レギュラー陣しか知らない。
きっと、跡部は英二に・・・こう言ったのであろう。
不二の体調が心配だから、側にいたい。
だけど・・・俺と不二の関係を知らないやつは、俺が青学にいることを不思議に思う。
だから、俺は1日、青学の特別コーチをしてやる。
大石にそう伝えておけ。
俺様が、弱点を見抜いてやるんだ・・・断る術はないと思うが・・・?
立海大附属は、すべてのレギュラー陣が全国クラスだ・・・
前日だとはいえ・・・跡部のアドバイスは必ず役に立つ。
大石だって、喜んで承諾しただろう。
鈍った体を体操でほぐす。
少しの間、部活に出なかっただけで・・・相当、体は鈍っているようだ。
それに・・・・
「ッ・・・痛い・・・・。」
思わず、小さく声に出る弱音・・・
切原の行為を拒絶して出来た・・・行為の最中に出来た・・・
全身に及ぶ、擦り傷・切り傷・アザ・・・
体を動かした途端、それらが疼きだす。
でも・・・周囲にはバレていないはずだ。
傷を隠すために、長ジャージを上下着ているのだから・・・
コートの外を軽く走ることにする。
タッタッタッタッ・・・・・・・
痛む傷に負けていられない。
こんなの無視できる痛みだ・・・。
みんなの練習している様子が目に入る。
越前の素早い動き・・・
桃の力いっぱいの返球・・・
英二の猫みたいなアクロバティックプレイ・・・・
これは、ストロークなんだから・・・っと乾に注意されている英二が可愛い。
肝心の跡部はというと・・・黙って腕を組み、みんなのプレイを見ている。
クールな瞳・・・
彼は、今・・・得意のインサイトで皆のプレイを見抜いている最中だろうか・・・?
・・・・・・?
少し、足元がフラつく・・・・。
軽く走っているだけなのに?
・・・ありえない・・・・。
大丈夫・・・・
大丈夫だ・・・・
「大石!僕、何番コートだっけ?」
「あぁ・・・ランニング終わったか?」
「うん。」
「俺らの隣、Aコートだよ!英二のとこ。」
「ありがとう!」
そう・・・練習しないと・・・・
切原に・・・立ち向かうためにも・・・
僕が加わったころには、フォアは終わり、バックのストローク練習となっていた。
どうやら、1人5球交代で回っているらしい。
僕は英二の後ろに入る。後方には乾。
ボールが跳ねる・・・・
久しぶりのテニス・・・
だけど、やっぱり体は覚えているもので・・・
いつものようにパシュっといい音を立てて、僕の打った打球はクロスのコーナーへと打ち返された。
他の球出しのボールも、すべて自分の思い通りの場所へと落ちていく・・・
ほら・・・大丈夫・・・
少なからず、自信がついた。
この様子を見た、英二が僕に声をかける。
「不二、調子いいじゃん。」
「みたいだね。」
「よかった〜!心配してたんだよ?顔色も・・・結構、よくなったし。」
「英二と・・・乾?」
「ん?」
打ち終わったばかりの乾が僕の後ろに並ぶ。
「迷惑かけて、ごめんね?」
「・・・良くなったならいいさ。・・・後で乾汁でも飲めばさらに・・・」
「いや・・・遠慮しておくよ。」
いつもどおりのくだらない会話・・・・
やっぱり、この場所は和む。
練習はこの後も続き・・・・
ボレー、スマッシュ、ラリー形式、走らせる形式・・・・
いつもの練習の総決算とも言える内容だった。
一通り、練習が終わったところで、跡部がレギュラー陣を集めた。
どうやら・・・アドバイスがあるらしい・・・・
インサイトのお手並み拝見。
「・・・・今までの練習とお前たちの試合しか見てね〜が
・・・これから1人ずつアドバイスしていくから、耳の穴かっぽじってよく聞け!」
お前に言われたくないよ!
なんて文句の1つや2つ出てもいいはずなのに・・・
僕の予想と反して皆、じっと跡部の言葉を待っている。
それだけ・・・みんなが真剣だということなのだろうか?
「まず・・・大石!お前、プレー中にお前の優しさが出るときがあるぜ?」
「えっ?」
「さっきのラリー形式の練習・・・本来、相手を出し抜く練習だ。なのに、お前は甘い球打って、つないでたろ?」
「・・・・・・。」
「その甘さ・・・コースもスピードも甘くなるぜ?気をつけな。・・・それから、菊丸!!」
「ほいっ!」
「ボレーする直前に、グリップがズレるの・・・くせだろ?直した方がいいぜ・・・
っと言っても、染み付いてる感じなんだろ?それを直すのは・・・なかなか難しいな。・・・だから、無理せず徐々にだ。」
「・・・・さすが、あとべ〜・・・。」
「ふん。」
お見事!
その後も跡部は、越前のパワー不足、桃のショットの威力について、海堂のスイングの悪いくせなど・・・
みんなが気づいていても、まだ直せていない部分や知らない弱点などを指摘していった。
こんな短期間に、アドバイスできるほどの洞察力には感服だ。
「最後に・・・不二!」
「はい。」
「・・・・ダッシュが甘いな。・・・それと、たまに変なスピンかけてるのは・・・わざとか?」
「あ、それはわざと!」
「・・・・変なくせつけないようにしろ!・・・それと・・・。」
「・・・・・・・・。」
「お前、少し休め。」
「・・・・・・えっ?」
「呼吸・・・未だに乱れてるのは、お前だけだ。」
言われてみれば・・・息苦しい・・・・
あ・・・れ?
どうしてなんだろう・・・・?
タカさんや桃が心配そうな面持ちで僕を見ている。
ダメ・・・・
休みたくない・・・。
「クスクス・・・・本当だね?やっぱ久しぶりにテニスするからかな?だけど、大丈夫だよ!
心配いらない。・・・・大石、次の練習メニューは?」
「不二・・・・?」
「大石!・・・・大丈夫。じゃないと、練習なんて最初から参加できないじゃない!ねっ?」
「・・・・次・・・と言っても、もう12時15分だ。・・・・ランニングを開始する。」
その言葉にピクリとその場にいた全員が反応する。
みんなの反応を代表して・・・口を開いたのは英二・・・・
「ね・・・大石・・・もしかして・・・・。」
「そう、ペナル茶〜のランニングだ。」
「明日試合っすよ?大石先輩!冗談でしょ?」
「桃!ま、クールダウンに・・・だな。」
「クールダウンなのに本気で走る気っすか?」
「越前・・・最後まで話を聞け!1周50秒以下の者は乾特性のペナル茶。前回は30秒だったんだ。ゆっくり走れるだろ?」
「走る周数が増えれば一緒じゃん・・・・。」
「越前、そういうな!・・しかも今回はレギュラー陣のみだ!・・・タカさん、用意を頼むよ。」
「OK!!」
スクっと立ち上がるレギュラー陣
僕も一緒に立ち上がる。
跡部の鋭い視線が僕を照らす。
続々とコートの外に出るメンバー・・・
僕も最後尾となって、そのあとに続く・・・・
跡部が、さりげなく僕に声をかけてきた。
「おい。」
「大丈夫だよ。しかも、クールダウンだからパワー・アングル付けなくていいんだ。」
「・・・・・・。」
「気分が悪くなったら、観念してペナル茶飲むからさ。」
にっこりと微笑んだけれど・・・・
本当は・・・・
跡部に指摘された直後から、体調は悪化するばかりだった・・・・
跡部をうまく騙せる自信はない
だけど・・・・これ以上、みんなに心配かけたくないんだ
だから・・・気づいたとしても・・・言わないで・・・
見守っていて・・・・・
何か・・・内容のない内容とは、このことを言うんですね!(笑)
とりあえず、不二の復活具合が半端・・・
完全ではない!ということが、わかっていただければ結構です。
というか・・・オイシイ部分があったんですけど・・・・
無駄にテニスの話書きすぎたので、18話に先送りです!!(笑)
気分の悪い不二の行方に注目!!