記憶の道標   Story♯01 失われた記憶







ピピピピピ・・ピピピピピ・・・・・・

時計の音?やめてよ。まだ、眠い。

ピピッ・・・ピピピ・・・・ピピピッ・・・・・

いや、違う。鳥の声だ。そういえば、暖かい光が射しているような気がする。目の前が白い。眩しい。

今日はいい天気なのかな?早く起きて遊びに行かなきゃ・・・・あれっ?体が動かない・・・。

「・・・・で、・・・・と・・・・・・ます。」

えっ?誰かの話声が聞こえる。何て言ってるんだろ?・・・だんだん、ハッキリ聞こえてきた。

「何だか、中性的な子だな。肌すべすべだし。華奢だし。10代か?・・・16〜18歳ってとこか。女の子にも見えるかも・・・。」

誰・・・のことかな?あぁ、僕か。確かに、母親似だし・・・でも、失礼な人だなぁ。

「やめないか。その子に失礼だろ。」

あっ、誰かが代弁してくれたよ・・・。ふふっ。ちょっと、うける。・・・・えっ?ちょっと待てよ。何で、人がいるの!?ここ僕の家じゃないの?











ガバッ!!

「・・・・っつ。」

「大丈夫か?あぁ、頭はまだ痛むだろうけど、心配ない。」

「あぁ。骨や脳に異常はないからね。でも、しばらくは安静にしていないとダメだぞ。」

起きたとたん頭に痛みが走り、手でおさえたのを見たからか、その場にいた男の人たちが交互に声をかけてきた。
1人の男の人は、綺麗な顔立ちの人。でも・・・こわそう。20代後半かな?
もう一人の男の人は、白衣と聴診器を身に付けている・・・お医者さん?こっちの人は、優しそうだ。
そう考えて初めて回りを見渡す。個室のようだが、色々な医療器具が目にはいった。


「えっと・・・ここ病院?・・・な、何で?それと、あなたたち・・・誰?」

「俺は、跡部景吾。お前が公園で倒れているのを見つけて、救急車を呼び、ここまで連れてきた。お前を特定する身分証がなかったから親御さんに連絡できなくてな。」

「それで、跡部が付き添ってたんだよ?一晩中。1人にしておくのは、どうかってね。あぁ、ちなみに俺は大石秀一郎。北石大学病院の医師だよ。」

「そうだったんですか・・・・ありがとうございます。」

どうやら僕はあのまま気を失ったらしい。それで、跡部とかいう男の人に助けられて・・・たぶん知り合いらしい、この医者のところまで連れてきてくれたのか。
だんだん状況がわかってきたぞっ。それにしても・・・この男、何者?仕事行かなくてもいいのかよ。

「で、お前の名前は何て言うんだ?何で、頭を殴られた?ケンカか?」

「僕の・・・・名前?」

跡部さんの簡単な質問に僕は答えられなかった。

「・・・わからない。・・・・あれっ?僕の名前・・・?何だっけ・・・・思い出せない。」

「そんなわけないだろ。ふざけているのか?ちゃんと名前を言え。そして、何で殴られた?」

「嘘じゃないよ!・・・・わからないんだ、本当に。名前・・・・何で殴られた?・・・」

昨日、頭が熱く重く痛かったのは殴られたからなのか・・・・。何でだろ?・・・それより名前っ!
思い出そうとする思考を痛みが妨げた。

「っつ・・・痛っ・・・・あ、あたま痛い・・・・」

「やめろ!跡部!!」大石先生がさえぎった。
そして僕に優しい声で言った。子供をなぐさめるような声。

「いいんだよ。もう思い出さなくても。」
そして、跡部さんの方を向きながら・・・さらに続けた。

「・・・・この子が嘘を言ってるとも思えない・・・。殴られたショックで一部記憶が飛んでいるのかも・・・・。」

「骨や脳に異常がないのにか?」

「そうだ。そういうこともあるんだよ!ごく稀にね・・・。ちょっと、詳しく調べてみよう。いいね?跡部も・・・君も。」

「あぁ。」

「はい・・・・。」















大石先生専用の部屋。
どうやら、彼の専門は心理らしい。なんだ・・・てっきり外科か内科の先生かと思ってた。僕の病室にいたから。
ここで、僕は色々な質問を受けた。わかることはすべて答えたんだ。白いふわふわなイスに座りながら・・・。



「どうやら・・・読み書きとかは、できるみたいだね。言葉の理解も発言もできてる。単語もわかってる。ただ人の名前と顔が一致しないのと・・・」

「わかるもの以外の記憶がキレイに消えているというわけか。まるで、どっかのテレビドラマみたいだな。都合よすぎだろ。」
跡部さんがギロっと僕を見る。
僕だって忘れたくて忘れたわけじゃない。

「う〜ん・・・こんなことって、あるんだね。でも、昨日の夜の記憶はあるんだよね?」

「はい。でも、視界がぼんやりとしてたし・・・すごく抽象的にだけど。」

「殴られたショックだね。」

「・・・これだけテストした結果だ。もう信じるしかないな。ちなみに昨日、最後に見えたものは何なんだ?」

「最後・・・・?・・・・天使。天使が見えたんだ。かわいい女の子のね。」


「天使・・・か・・・・。」
本当のことだけど、少なくとも跡部さんは信じないと思ったのに・・・彼は、すいぶんと真面目な顔をしていた。そして、大石先生も。

「跡部。警察に・・・連絡した方がいいんじゃない?」

「そうだな。」

「ダ、ダメっ!!お願い、やめて。」 
2人はビックリしたように僕の顔を見た。

「・・・?どうした?何でダメなんだ?」
さっきまでとは違い優しく声をかけてくれる跡部さんに戸惑いつつ僕は答えた。

「わ、わかんないよ・・・でも、警察には通報したらダメっ!ダメなんだ。」
体が震えている。理由は不明だが、警察という言葉を聞いたとき・・・恐怖を感じたのだった。

「・・・わかった。でも、この先のことを考えて言ってるのか?お前は。親御さんに連絡するには警察に行った方が・・・」

「跡部が面倒みてあげれば?」
跡部さんの言葉を遮って、淡々と大石先生は続けた。

「ここから、跡部の家は近いし・・・。1人くらい増えても平気でしょ?この子をあまり刺激したくない、医師として。時間をかけないと。
 お前もわかってるだろ?それに、跡部なら安心だしね。ずっととは言わない。彼が落ち着くまでだよ。なっ?」

「はいっ。」
とりあえず逃れるにはこの方法しかない。跡部さん怖いけど・・・・などと僕は無意識のうちに考えていた。

「・・・・わかった。全く、大石には負けるよ。俺が預かる。責任持ってな。約束だ。」

約束・・・。僕の体の震えは止まっていた。この人・・・信じていいのだろうか?そう思い始めたきっかけの言葉。









5日後。僕はケガの具合がよくなったので、退院することになった。
5日経っても、顔を出してくれるのは跡部さんと大石先生と・・・僕を看てくれている看護士さん・医師の方くらいなもので、
僕の親だと名乗り出るものもいないらしい。警察官がたずねてこないあたり、きちんと約束は守ってくれているようだ。
そして5日前、僕に名前がないのは不便だということで、跡部さんが僕に名前をつけた。フジという名前を。
僕を見つけた公園が、ヤマフジ公園というらしい。や・ま・ふ・じのフジ。変な理由だけど悪くはない。
跡部さんはあいかわらず、ちょっとコワイ。
でも、時折見せる優しさを僕は知っている。
そして、僕は本当に跡部さんのお世話となることになった。
ちょっとまだ不安だったけど、出て行く間際にそっと大石先生が僕の気持ちを見抜いたのか、言ってくれたんだ。

「跡部は信用できる人だよ。最初の日にフジくんのこと信じるって言ったでしょ?
あいつは言葉どおり君を信じてる。もう、味方だよ。もちろん、俺も。
 だから、安心してね。」



サッサと歩く跡部さん。僕は彼についていく。きっと、大丈夫。きっと・・・・








何で?と疑問になる部分も後々、つじつまが合うはず!
まだ話は始まったばかりです。
ちなみに、この話はフィクションですので(笑)
特に医療ネタ関係のツッコミは見逃してください。