記憶の道標  Story♯02 襲撃




街が明るい。
人の声も音もガヤガヤ聞こえてくる。なのに、彼の足音もハッキリと聞こえていた。
ザッザッザッザ・・・跡部さんはどんどん歩く。早いなぁ。僕は思わず叫んだ。

「ま、待ってくださいよ!跡部さん。」

その声で、彼の歩みはピタッと止まった。怪訝な顔をして振り返る。

「その・・・跡部さんっての、どうにかなんないか?跡部か・・・景吾でいい。敬語も。使わなくていいから。」

「いや・・・でも、年上だし。礼儀として・・・」

「やめろ。」

彼の声には、有無を言わせない力がある。

「・・・・。じゃぁ・・・景吾。ちょっと待って。早いよ、歩くの。家どの辺なの?近いんだったよね?」

「近いといっても・・・20分くらいか。・・・あぁ、大石はいつも車で来るからな。近いという感覚があるのだろう。」

跡部さ・・・いや、景吾は僕と同じ歩調にしてくれた。

「まだ、頭は痛むのか?」

「ううん。大丈夫だよ!だから、退院したんだしね。」

「それも、そうだな。」
ククっと景吾が笑う。安心する笑顔。何だかんだ言って、初めてみた景吾の笑顔だった。

「ねぇ、大石先生とは知り合いなんだよね?どういう知り合い?景吾、仕事は?結構、不規則的にお見舞い来てくれたから。」

「大石は・・・友人なんだ。高校のときの。ちなみに俺は仕事してない。」

「えっ?でも・・・・」

「アルバイト!バイトしてんだ。掛持ちで。会社で働いてるわけじゃない。フリーターってやつだ。」

「ふ〜ん・・・納得。」

ここで突然、景吾が笑い出した。

「な、何っ!?」

「いや、納得してるから。お前さ、本当に変な記憶の抜け方してんのな!貴重な存在じゃないか?
 しかも、普通もっと心配するだろ?俺はこれからどうなるのかな?って。」

「・・・・。今更、何言ってんの。そりゃ、したよ。最初のころは。この先、どうすればいいのか。僕の記憶はどうしたら戻るのか。
 もしかしたら、一生戻らないかもしれないんじゃないかって・・・。でもさ・・・今は景吾や大石先生を頼りにしようかと思って。
 考えても仕方ないしさ。いい・・・かな?」

「・・・・ああ。」

















景吾はそれから黙ったまま歩いていた。
いつの間にか、明るく騒がしい街中を抜けて、暗い路地に来ていた。
何だか景吾はずっと考えこんだ顔をしている。
僕、そんなに考え込むようなこと言ったかな?
景吾って、やっぱり不思議な人だな。こわい顔をしていることが多い。でも、心は優しいみたいだし。
フリーターって言ってたけど、景吾は頭もキレそう。なんだか、僕の気持ちが見透かされているみたい・・・・。
よくわからないけど、そんな感じがする。
僕は立ち止まって、ボーっと景吾の背中を見つめる。

「おいっ、フジ!お前、何立ち止まって・・・」

僕が隣にいないのに気づいて景吾が言葉を発した。その時!
すごい音と光が後方から、僕に迫ってきた。車の音だ!
僕はとっさに振り返る。どんどん車は物凄いスピードで僕の方へやってくる。運転手の・・・目が見えた気がした。
逃げなきゃ!でも・・・体が動かない・・・・黒い車・・・黒い・・・・光は僕を放さない。そして、言葉だ。言葉が聞こえる。



「フジっ!!」



僕を呼ぶ声。それと同時に、何か暖かいものが僕を覆った。




ドサッ。



















「おい!フジ。・・・フジ!?大丈夫か!?フジ!」

どうやら、景吾が助けてくれたらしい。暗い路地の端にいる。コンクリートの冷たさを感じる。

「あ・・・うん。・・・だいじょう・・」

「大丈夫じゃないだろ?震えてる。ケガは?どこか痛いところは?」

「ないよ。・・・平気。ちょっと、びっくりしたけど。」 
僕はそう言って立ち上がった。

「そうか・・・良かった。ったく、ひどい運転だよな。」 
景吾の言葉は優しかったけど、目は鋭く怖かった。目・・・?

「・・・?どうした?フジ?」

何だ?何・・・?胸騒ぎがする。
突然、頭が痛みだした。クラクラする・・・立っていられない・・・・・。

「おい!フジ!」

足元が崩れた。景吾は僕を抱きとめてくれている。
・・気分が・・・悪い。気持ち悪い・・・。

「ごめ・・・ん。目が・・・目が・・・。」

「目?・・・さっきのやつのか?」

「わかんない・・・でも、聞こえるんだ。」

「・・・何が?」

「声だよ。人の声・・・。目と声が僕を放さない。でも、ノイズでハッキリ聞こえないし、見えないし・・・も・・・もう少しで・・・
 わかりそうなんだけど・・・・気分が悪くな・・・」

言い終わらないうちに景吾が僕をギュッと抱きしめる。

「やめろ、フジ。落ち着け。大丈夫だ。無理に思い出さなくてもいい。いいんだ。」

景吾の目は優しさに満ちたものになっていた。

「急にフラッシュバックしたのか?・・・でも大丈夫。体が拒否してんだ、きっと。
 無理に思い出そうとしなくていい。何かあっても、俺が君を守るから。・・・俺を信じろ。なっ?」

僕が落ち着くまで、景吾は黙って頭をなでてくれた。安心する手。
僕はもう、とっくに景吾を信じてるよ。

僕らは、暗い路地に届く月の光を浴びていた。キラキラと光る幻想的な・・・・。





私はフジの方が不思議だけど。(おい)
フジは頭がいいんです。これ、ポイント。
自分が記憶喪失気味なだけに、記憶ネタは好き。←!?