記憶の道標  Story♯03 仲間





あんなことがあって景吾は、大石先生の元へ戻ることを薦めたが退院したその日にまた戻るなんて格好悪すぎる。

そのまま景吾の家へ行くことにした。

景吾の家は、小奇麗なマンションだった。
あの路地を抜けて、少し歩いたところにある。
地下鉄の駅が近い。
近くに公園もある。

でも、バイトだけでこんなマンションに住めるのかな?
その疑問は、玄関を見たとき解消された。
表札に名字が2つ・・・・菊丸/跡部・・・こう書いてある。
ここで、景吾が妙なことを言った。

「フジ。いいか。余計なことは話すな。俺に合わせろ。・・・わかったか?」

「・・・?。う・・・うん。」



















「ただいま。」

「お、おじゃまします。」

景吾について入った。
男物のくつがたくさんある。
リビングへ行くと男性が1人迎えてくれた。

「あぁ、おかえり。・・・あれっ?その子が例の子?」

あらかじめ、景吾が説明してくれたらしい。

「はじめまして。フジです。お世話になります!」

その人は、にっこり笑う。
景吾とは対象的で、いい人そうな感じが滲み出ている。

「はじめまして。菊丸英二です。英二って呼んで!」

「えぇ!?いや、菊丸さん・・・」

「英二!!」

「・・・英二・・・。」

「よくできました。
 跡部とは中学の時からの知り合いでね。
 気が合うから、一緒に住んでるんだ。びっくりしたっ?」

「えぇ・・・ちょっと。バイトだけじゃ、こんな所に1人で住めないと思って。」

景吾が即座に口をはさむ。
「菊丸。前にも言ったけど・・・・」

「あぁ、わかってる。ご両親が行方不明なんだってな?親戚の方も地方で、学校に通えなくなる。だから、ここにしばらく住むってわけだろ?」

「えっ?」 
理由が違う。記憶がない今、両親のことなんてわからないし・・自分の年齢すらわからないのに・・・。
学校だって行けない。行ってる場合じゃない。







「ん?どうした?」



「菊丸、悪い。さっき帰り道でひどい車の運転のやつがいてな。・・・危うく轢かれるところだったんだ。
 フジは、動揺している。先に休ませてやってもいいかな?」


「えっ!?そりゃ、相当な運転だにゃぁ。大丈夫だったの?」

「あぁ、何とかな。俺もこいつと先に休む。悪いな。」

「いや、いいよ。ゆっくり休めよ!俺は・・・ちょっと出かけてくる。」にこっと笑う。

「どこにだ?」

「友達のとこっ。」

菊丸さん・・・じゃなかった。この人たちは、何で呼び捨てにこだわるのかな〜、まったく。
えっと・・・英二は、そう言って出かけて行った。
僕は混乱しながら、景吾の部屋へとトボトボ入った。


















景吾は俺を信じろと言った。
もちろん、信じてた。でも・・・
英二に、景吾は何で僕のことを話さないんだろう。どうして嘘をついてるんだろう。決心が揺らぐ。

「おまえは、そこのベットを使え。」

景吾の声で、僕は現実に引き戻された。

「えっ?景吾は?」

「俺は床に布団を敷いて寝る。狭いけど我慢してくれ。」

「いや、悪いよ!僕が下で寝るよ。」

「年下は、年上に甘えるもんだ。気にしなくていい。」

「・・・僕が年下だって保証は、どこにもないよ。
 ・・・どうして英二に僕のこと、ちゃんと言わないの?学校だって行ってないかもしれない!」

「フジ・・・?」

「だって、そうじゃないか!僕には記憶がないんだ!!どこの誰なのかも、年齢も、どんなやつなのかもわからない!!」

「フジ。」
景吾はまっすぐ僕を見る。その視線が痛くておもわず避ける。

「呼ばないでよ!フジって名前だって、最近ついたんじゃないか!まるで、ペットみたいだよ。
 僕はココにいたらいけない人間なんだ!もう・・・誰を信じていいかもわからな・・・・」

景吾は、急に僕の両肩を強く掴んだ。。

「っつ。景吾!痛いっ・・・」

「聞け!フジ。俺の目を見ろ!・・・何で、菊丸に嘘を言っているか・・・それは今は教えられない。
 でも、きちんとした理由があるんだ。信じてもらうしかないんだ。フェアじゃないのはわかるんだけどな。
 ・・・フジ・・・ごめんな。・・・ごめん。それと・・・お前の苦しみを甘くみていた。こんな華奢なやつがこんなに苦しんでいるなんてな。」




また、僕の頭をなでる。子供をなぐさめるかのように。





「いや・・・僕こそゴメン。・・・急に不安になったんだ。英二に嘘ついてたから。・・・それで。・・・もう、平気だよ。心配しないで!」

「ばかっ。無理するな。我慢してたんだろ?ずっと。俺や大石にこれ以上迷惑かけたくないからか?」



景吾は僕の心を読めるのかもしれない。
病院で目が覚めてから5日・・・ずっと一人で考えていた。抱えていた。
相談なんて・・・不安を聞いてもらうなんてできない。
ただでさえ、迷惑かけてるのに・・・唯一、心を許す、景吾と大石先生にそんなことに時間を取ってもらうなんてこと、できない!
ずっと、ずっと・・・そう考えていた。



「思ってること、全部俺に言えよ。な?一人で思いつめなくてもいいんだ。まだ出会って5日だけど、俺はお前の味方なんだ。
 出会う前のお前のことは俺も知らない。・・・でも、出会ってからのお前のことなら知ってる!
 優しくて、頭が良くて、少し生意気で・・・とても繊細なやつだ。人に気をつかうやつだ。だから、俺は決めたんだよ?
 お前の記憶が戻るまで、お前を守るって。面倒見るってな。」

僕の目からは、熱いものが溢れていた。ずっと我慢していた気持ちが涙の滴となってあらわれた。

「ったく、お前は不器用だな〜。」


それから、僕はずっと泣いていた。声を出さずに、ひたすら。
その間中、景吾は泣き顔を見ないようにするための配慮か、僕を抱きしめてくれていた。
背中をトン、トンとやわらかくたたいてくれていた。



























暗い部屋。
フジは、さっきやっと落ち着いたのか深い眠りへと落ちていった。俺の部屋で眠っている。
菊丸は、まだ帰っていないようだ・・・AM3:00。
少し・・・遅すぎやしないか?
おっといけない。そんなことに構っている余裕はない。
早く、電話しないと・・・・・



プルルルル・・・・プルルル・・・・


かすかに電話の音が響く。



「もしもし?俺だが・・・・あぁ、フジなら大丈夫だ。よく眠ってる。あぁ・・・平気だよ、心配ない。すべてうまくいっている。
 えっ?・・・はい・・・はい・・・わかりました。早速、実行します。」









2人の行方はいかに!?
最初はフジ目線。終わりのほうは跡部目線。
これ、推理ものなんだけどな〜・・・・。
跡部もなかなか賢いですよ。ポイント。
てか、跡部を「景吾」って書くことに違和感があるのは、私だけ?(笑)