記憶の道標 Story♯04 再び






居心地がいい。ここは、どこだっけ?・・・ふかふかしてる。

「フジ・・・・」


誰かが呼んでる。この名前がついて、6日目。なのに、この名前に反応する。


「フジ・・・?」


わかってる。もう起きるよ。でも、もう少しいたいんだ。ここに・・・・













「フジ!」

パッと目が覚めた。景吾が驚いた顔をしている。

「ビックリしたな・・・急に目を開けるから。・・・おはよう。気分はどうだ?」

「おはよう。・・・大丈夫だよ。よく眠れた!」

「それは、良かった。ほらっ、濡れタオル!目、痛いだろ?冷やしておけ。」
景吾は僕に冷たいタオルを渡し、リビングへと向かった。

そういえば、瞼がやけに重い。きっと昨日、泣いたからだ。でも、おかげで気分はスッキリした。
僕も目を冷やしながら、景吾へ続いてリビングへ行く。
景吾たちの家は2LDK。リビングに食卓テーブルがある。
そこには、もう朝ごはんができていた。

「紅茶でいいかな?」

「あっ!自分でやるよ。」

僕はパタパタと台所へ向かう。そこで一通り、台所の使い方の説明を受けた。
僕は、2人分の紅茶を入れて持っていった。

「ありがとう。」

「あれ?そういえば、英二は?」

「あぁ、仕事に行ったよ。もう、10時だからな。夜遅くまで出かけていたみたいだけどな。」

「へぇ〜・・・記者だっけ。大変そう。今日、日曜日なのに仕事なんだ〜。」

「悪いが、俺も出かける。」

「えっ?バイト?」

「あぁ。日曜だろうが、関係ないからな。・・・フジは・・・外に出たいか?」

「何で?」

「いや、記憶がない今、1人での外出は危険だからな。かといって、バイト先に連れて行くこともできない・・・・。
 俺としては、外出時は、俺か菊丸と行動してほしいんだがな。」

「そうだね・・・わかった。今日は、おとなしくしてるよ。」

「あぁ。悪いな。」






そう言って慌しくご飯を食べて、景吾は出かけていった。
バイト掛け持ちなんだっけ?大変だよな〜。
僕もバイトした方がいいかな?お世話になっている身だし・・・。

のんきにそんなことを考えていたが、それは電話の音により中断された。







プルルルル・・・プルルルル・・・・

何回も、何回もかかっている。まだ、途切れない。

プルルル・・・・プルルル・・・・・

僕は、電話に出ようか出まいか迷っていた。
外出はダメだと言われたが、電話に出るなとは言われていない。
でも、人の家の電話に他人の僕が出てもいいものなのか・・・・。
でも、英二、記者だし・・・急な用事なら困るよね。
葛藤の末、僕は電話の受話器に手を伸ばした。
静まりかえる部屋。


「も・・・もしもし?」

「・・・・お前、何でそこにいる?」
声が変だ。ヘリウムガスを吸ったときの声みたいな・・・。

「えっと・・・どちらさまですか?今、菊丸と跡部は留守なので用件は僕が聞きますが?」

「そんなことは、知っている。・・・質問に答えろ。」

「・・・・・。」
僕がここにいると知っているのは、景吾、大石先生、英二だけのはず。・・・この人は一体・・・・。

「覚えているよな?約束した。お前がしゃべったら・・・仲間を殺す。オレはいつもお前を見張ってる。」

「ちょ、ちょっと待ってよ!僕そんな約束知らないし、それに・・・」

「あぁ。いい子だな。とぼけているのか。よし、それでいい。何も言うな。特に・・・跡部とかいう男には。
 何かしゃべれば・・・跡部は死ぬ。」

「景吾が・・・死ぬ・・・?」
わけがわからない。この人・・・何を言ってるんだ?・・・記憶がない。わからない。

「あぁ、そうだ。念のため・・・少し傷をつけておくか。」

「ちょっと、何言って・・・」

「オレは、言ったことは実行する。」

ブチっと電話はそこで切れた。
イタズラ電話?いや、違う・・・名前を・・・景吾の名前を知っていた。
落ち着け・・・落ち着いて・・・・
景吾を・・・傷つけると言った。何のために?僕への脅し?

僕はすっかり冷静さを失っていた。
疑問に感じることは多かったけど・・・体が先に動いた。
景吾を助けに行かないと!











僕は、景吾との約束を破って外へ出た。
景吾がどこにいるのか知らないのに、階段を駆け下りて走った。
そう・・・助けないと!
走った。路地を抜けて、繁華街に出るまで走ったんだ。










ドンッ!!!











「痛たたっ・・・スミマセン。大丈夫ですか?・・・って、フジ!?」

僕は人とぶつかった。知っている声だった。英二だ。

「君、ひとりで何してるの?跡部から言われなかったか?外出するなって。」
英二は、僕を見る。一瞬、間があった。
そして、驚いたような声で続けた。

「フジ・・・気分悪い?顔・・・真っ青だよ?震えてるし。」

英二は、自分のコートを僕に着せてくれた。

「いや・・・平気だよ・・・。それより、英二。大変なん・・・」



ガコッ



「フジ!伏せてっ!!」
















ここから先は、まるで現実じゃないみたいだった。

変な音がしたと思って・・・気づいたら、僕は英二に突き飛ばされていた。
当の英二は・・・・倒れている。
英二の上には、大きな看板。







「え・・・いじ・・・?」

すごい血。
英二はうつ伏せのまま動かない。



キャー!!!




女の人が叫ぶ声。
でも、僕には聞こえない。
小さな出来事には素通りするであろう周りの人たちも、あまりの事態に僕らに駆け寄る。
でも当の僕は、その様子がスローモーションで見えていた。音も聞こえない。
英二を助ける人たち、僕を助ける人たち・・・・すべてが夢のようだった。
そう、ただ呆然と眺めているしかなかった。



僕の目の前には、同時に黒い車も映る。
・・・昨日の出来事が甦る。
もしかして・・・・。










不思議に思う箇所がたくさんあることでしょう。
えぇ。すべて計算済みさ!(本当ですか?)