記憶の道標 Story♯05 フラッシュバック
連絡を受け、病院へ駆け込む。
待合室のベンチには、フジと大石が座っていた。
大石はフジに話しかけるのだが、
彼は意識ここにあらずという感じで、ぼーっと一点を見つめ、大石の声は届いていないようだった。
「跡部・・・。」
大石が声をかけると同時に、フジも俺に気がついた。
2人に近づく。
「フジ・・・?」
優しく声をかける。
「・・・・景吾ぉ!!」
フジは、俺にしがみついてきた。また・・・震えている。
大きめのコート。見覚えがある・・・・菊丸のだ。
「・・・・大石・・・菊丸は!?」
「大丈夫。命に別状はない。」
「そうか。よかった。・・・・それで?」
「説明するよ。どうやら、フジと英二が外で立ち話をしていたら・・・上から看板が落ちてきたみたいなんだ。
英二は、フジをかばって・・・・。
跡部。フジ、今ちょっと・・・。」
「あぁ。わかってる。無理なことは聞かない。・・・どこか部屋を貸してくれるか?」
「じゃ、俺の部屋に・・・。」
「フジ。もう大丈夫だ。立てるか?詳しく話しを聞きたいんだ。」
フジは、黙ってうなずいた。
俺たちは、大石の部屋へと移動する。
大石は、気を遣ってくれたのか俺とフジの2人で話をさせてくれた。
フジの震えは止まっていない。
やばいな・・・。
「フジ?大丈夫か?震えてるぞ。」
「・・・・ね・・・ねぇ。」
「ん?」
「誰かが僕を狙ってるの?」
「・・・・。どうしてそう思う?」
「だって・・・昨日といい今日といい、2回も危ない目にあうなんて、おかしいじゃない!」
「・・・・。」
ずっと気になっていたが、フジは記憶がないのに頭はキレる。こいつ、一体・・・・。
「それに、車!!昨日の車がいたんだ!今日も!!見たんだよ!僕、この眼で!!」
フジを少しでも落ち着かせようと、彼の手をとり、同じ目線で話す。
「・・・・黒い車なんて、いくらでもあるだろ?」
「まだあるんだ。電話がかかってきたんだよ。」
「電話?」
「そう。僕が景吾の家になんでいるのかって・・・・。そのこと知っているのは、ごく僅かな人たちだけなのに・・・。
景吾の名前も知ってたんだ!僕が、何かを言ったら・・・・景吾を殺すって。
僕が信じていないのを悟って、見せしめとして景吾を傷つけるとも言った!だから僕、景吾を助けようと外へ・・・そしたら、英二と会って・・・」
「・・・いたずら電話だろ。」
「いたずらにしたら、度が過ぎるよ!!
・・・・ねぇ、景吾。教えてよ。隠さないでよ!僕は・・・誰かに狙われてるの?」
俺は少し動揺した。
「・・・・そんなことはな・・・」
「景吾!目をそらすなんて、珍しいね。
・・・僕、嫌なんだ。僕のせいで、これ以上・・・・傷つく人は・・・見たくない。」
フジは涙をこらえているようだった。
俺は、言わなくてはならないのかもしれない。
「・・・・わかった。お前が動揺しているのを見て、言うのはやめようと思っていたんだが・・・・」
「大丈夫。僕は、弱くない!」
こいつは、言い出したら人の意見など聞かない。そういう節があるんだ。
「よし。・・・まず、昨日なんだが・・・昨日から、お前は狙われていたんだ。」
フジは、厳しい顔をしている。
「昨日、お前を轢こうとした車・・・・ナンバーが消されていたんだ。」
「!?」
「昨日の時点では、もしかしたら事故かもしれないと思っていた。
そして、酔った連中がふざけてナンバーを消す・・・というか隠しているんじゃないかってな。
でも・・・念のため用心した。俺が狙いだったのならいいが・・・フジが狙いなら、危険だと思った。」
「だから、1人で外に出るなって・・・・。」
「そうだ。でも、今日の出来事で確信に変わったな。これを見ろ。」
俺はコートから、それを取って見せた。
「何これ?紐?」
「紐というか・・・ワイヤーだな。これで、看板をとめていたんだ。
よく見ると・・・切ってあるだろ?鋭く。これは、サビて脆くなったから切れたものじゃない。
切断されていたんだ・・・刃物などを使ってな。つまり・・・」
「誰かが故意に看板を落としたってこと?」
「そうだ。しかも昨日と今日、現場にいたのはお前だ。つまり・・・」
「景吾じゃなくて・・・昨日も僕を狙っていたってこと?」
「あぁ。」
目の前のフジは、意外と冷静そうに見えた。
しかし、体の震えがそれはフジの強がりだということを示していた。
俺はフジに近づき、肩を抱く。
僕は、真実を聞きたかった。
だから、平気だと言ったけど・・・景吾が告げた真実は正直かなりこたえた。
冷静を装っているつもりでも、体の震えが止まってくれない。
そんな僕の気持ちをわかっているのか、いないのか・・・景吾はさっきから、僕の肩に手を置いてくれている。
ふっと、景吾の目を見る。・・・・鋭い目をしていた。
「・・・・か?・・・・警察・・・・ぞ。」
目が僕の前に立ちはだかり、誰かの声が聞こえてきた。
気持ち悪い。
僕は思わず、床に崩れ落ちた。
景吾が驚いたように声をあげる。
「フジ?フジ!?おい、どうした?フジ?」
このまえノイズで聞こえなかった声だ。・・・もう少しで聞こえる。
目の前には、情景が浮かぶ。公園だ。暗くて・・・静まりかえっている。
そんな中、鋭い目が僕を睨み付ける。そして、静寂の夜に音を発する。
「いいか?小僧。お前が見たことを誰にも言うなよ。特に警察にはな!
俺は、お前をいつも見張っている。もし、言ったら・・・その時は、死神となってお前やお前の大切なやつを斬りに行く。」
目が・・・僕を睨み付けている。
そらせない・・・。
殺気に満ちた目だ。
僕は呪縛でもかけられしまったのだろうか?
「フジ!・・・・フジ!!」
僕を呼ぶ声。
でも、そのときすでに僕の意識はなくなっていた。
ちょっと発展したかな?
最初は跡部目線。途中からフジ目線。
フジは弱いよね〜体。(笑)
強気だけど弱いし。
あと、大石と菊丸は知り合いです。