記憶の道標  Story♯06 はじまり 









ふわふわしている。
ずっとここに居たいと思わせるような場所だ。
ここは・・・どこだっけ?
景吾の・・・家?









ゆっくりと目を開ける。
景吾の心配そうな顔が見える。

「気がついたか?」

「・・・ここ・・は?」

「俺の家だ。」



あぁ・・・やっぱり。



「僕・・・どうしちゃったのかな?」

「こっちが聞きたい。急に倒れたから・・・心配した。」


そっと寝ている僕の髪をなでる。
ずっと起きていてくれたみたいだ。


「・・・ごめんね。・・・あっ!英二は!?」

「あぁ、話をした。話せるくらい元気さ。まぁ・・・しばらくは入院だな。
 大石はお前も病院に残した方がいいと言ったんだが・・・」

「えっ、ココがいい!」

思わず本音を言ってしまった・・・。恥ずかしい・・・。
病院は、何となく窮屈で嫌だ。
数日間の入院でそう思っていた。
景吾は優しく笑う。

「だと思って、身体的な異常はなさそうだからと無理言って、お前を連れて引き返してきてやった。」

「・・・そっか。ありがとう。」





部屋がシーンとなる。
夜が明けたらしく、光が差し込む。





「景吾・・・仕事は?アルバイト!」

「こんな状態で行けると思うか?今日は、できるかぎりお前の側にいる。
 もう少し寝たらどうだ?ずっと俺がここにいてやるから・・・安心しろ。」




安心・・・?








そうだ!!
僕は誰かに狙われているんだ!
思い出してガバっと体を起こす。





「お、おい。」

「寝てる場合じゃないよ!景吾!聞こえたんだ!声が!!」

「フジ?声って・・・前に言ってた?」

「そうだよ!ノイズが晴れたんだ!声と・・・情景が浮かんだ!でも、その途端に気分悪くなってきて・・・」


「フラッシュバック・・・話せるか?」

心配そうに僕を見る。

「僕をなめないでよ。平気だよ。
 ・・・目が・・・言ってたんだ。暗くて・・・静かな公園で。」

「目?」

「そう。お前が見たことを誰にも言うなよ?特に警察には。言ったら・・。」


言葉を続けてよいものか迷った。それどころか、景吾に話したことを後悔した。
話したら、景吾は・・・。


「言ったら?」

「・・・・。」

「大丈夫だ。言ってみろ。」
景吾の言葉には有無を言わせない力があるんだった・・・。忘れてた。

「・・・死神となってお前の大切なやつを斬りに行く。俺はお前をいつも見張ってるって・・・・。
 ごめん!僕、景吾に言っちゃったよ。」

「・・大丈夫だ。」

景吾は一瞬、ニコっと微笑み・・すぐに真剣な顔つきになった。

「死神となって・・・か。それより気になるのは・・・」


「僕が何を見たのか?」


「そうだな。・・・そこは思い出さないのか?」

「ごめん。」

「いや・・・。むしろ思い出さなくていい。」

「どういうこと?」

「無理をさせたくない。
 お前を殴ったのは、たぶんその「目」のやつだろう。殴られたショックで記憶を・・・
 いや、もしかしたらその何かを見たから、記憶を失ったのかもしれない。」

「・・・・。」

「よく数日で退院したな・・・・。
 記憶を失うほど強く殴られた・・・記憶を失うほど衝撃的なものを見た・・・
 どっちにしても、お前が見た「何か」は想像を絶するものだろうと予測できる。それを思い出したら・・・」









「僕が見たもの・・・それがポイントだね。」

「まぁな。でも・・」

「景吾っ。」

僕は彼の優しい言葉を止めた。新たなる決意ゆえに・・・。


「僕は・・・その「何か」を追う!記憶を甦らせる!!」

「お前、俺の話を聞いていたのか?・・・俺は・・・」

「聞いてたさ!でも・・・きっとソレがわからないと・・・一生狙われる。
 そんなのゴメンだし、僕のせいで皆が傷つくのは嫌だ。」

「警察に頼めば、守ってもらえる。」

「警察なんて信用できないよ!」

「・・・。」

「それに・・警察に言うなって・・・。
 景吾が反対しても、僕はひとりで追うよ!自分のことだもの。
 このままじゃダメだ。記憶を再生させないと・・・。きっかけがあれば、きっと思い出す。
 病院でのように。景吾には、迷惑かけないよ。」

景吾の顔をチラっと見た。考えているみたい・・・。
少々の沈黙の後、彼は言葉を発した。

「・・・バーカ。もうさんざんかけてるだろ?こうなると思ったよ。」

景吾は厭きれた顔で、優しく僕の頭をなでる。

「いいだろう。ただし、俺も追う。ひとりでなんて・・考えるなよ。
 もし、また気分が悪くなったらどうする気だ?守るって決めたからな・・・とことんつきあってやる。」

「景吾・・・。ありがとう。」

「でも・・・どう突き止める気だ?」

「わかってるくせに・・・。公園だよ。ヤマフジ公園!!」」

「ヤマフジ公園?」

「そう。そこが一番、怪しいじゃない!僕が倒れていたんだから。」

「でも、あそこからは・・・・。」

景吾は言葉を止める。

「何?」

「いやっ・・・。今は・・・午前5時だ。今日、早速行くか?」

「行く!!」

「気分は?」

「ん、平気!」

「ははっ。よかった。・・・でも、もう少し寝ていろ。俺も少し休む。」

そう言って、僕の布団の中に入ってきた。

「ちょっと、景吾!?」

「・・・・。」

「・・・景吾?」

景吾はもう寝息をたてていた。
やっぱりずっと起きていてくれたんだ。
子供のような顔をしている。
彼の顔をじっと見つめる。
・・・あれ?この顔、どっかで・・・・。

は〜ダメだ。僕に再び睡魔が襲いかかってきたようだ。
景吾の隣に突っ伏す。













ちょっと、やっかいなことになった。
フジと公園に行く・・・。
計画がズレる。
打ち合わせをしなおさないとな・・・。









なかなか進展しない・・・(笑)
でも、跡部と不二がラブラブ気味なんで、許してくださいv